材料選びと商品開発の考え方
- 平岩
- 具体的な商品についても、少し詳しく教えてください。
ヴィエノワズリー類には、強力粉を使っていらっしゃるのですか? よく見ると、同じ生地を、成形の違いやトッピングなどでバリエーション豊富に仕立てていらっしゃいますね。
- 遠藤
- 「カメリヤ」と「リスドオル」が主流で、たまに「バイオレット」も使っています。
クロワッサンとパンオショコラなどは同じ生地ですし、ブリオッシュも、ナンテール、ムースリーヌ、それにチーズや青のりなど具材入りのものなど、全て1つの生地です。クロワッサンを再生させた「クロワッサンダマンド」や、ブリオッシュを再生させた「ボストック」などもあります。
- 平岩
- 元々は、食べ物を無駄にせずアップサイクルさせるという考え方で生まれた再生菓子があることも、古き良き時代のフランスのパティスリーはこうだった、という雰囲気を感じます。
ヴィエノワズリーやフィナンシェなどのシンプルな焼きっぱなしアイテムは、最近のスイーツ市場でもブームになっていると思いますが、こちらは、生菓子もシンプルですよね。シリコン型を使い、センターを別に作って冷凍しておき、ムースの中に仕込んでまた冷凍して、仕上げに艶掛けやピストレをして・・といった複雑な工程を必要とするお菓子が、他店に比べて少ないと感じます。「ミルフイユヴァニーユ」などは、パイ生地とクリームだけで、究極にシンプルですよね。
でも、最近のパリでは一周回って、今はむしろこういう方がトレンドの一画になっているかなとも思いますが。



- 遠藤
- 銀座のパティスリーにいた頃は、派手な見た目の生菓子を多く作っていましたが、今はよりナチュラルで、ガトーに不必要なものを乗せたくないので、紙製のピックも刺しません。
ドゥミセック類は、大きめサイズを意識しています。パウンドケーキも敢えてカット売りをせず、ホールサイズのみで、アクリル製のBOXに入れて、中身が見えるようにしました。日持ちはしないのですが、どうしてもあれをやりたかったんです。
- 平岩
- フランスのパティスリーでは、あのスタイルで販売されているパウンドケーキを割とよく見ると思います。日本ではギフト需要が高く、カットされて個包装にしたものが求められますね。
最近は主流となっている細身タイプのケークでもなく、サイズもかなり大きいので、生菓子のショーケースの上でどーんと存在感を示しているのが目を引きます。

- 遠藤
- うちの商品は、価格に対してサイズが大きいと、よく言われます。
クグロフも、小さなサイズは三越での催事のために作りましたが、大きめのサイズがちゃんと売れています。フランスだと、あれよりも大きいくらいです。
1品ごとに原価計算しているのではなく、ショーケース全部の原価で考えていて、採算はちゃんと取れているんです。
フランスのどこの店にもある品を、自分なりの一工夫を加えて出すよう心掛けています。
たとえば「タルトシトロンムラング」は、一般的な円形ではなく、小舟の形の「バトー形」です。これは製造工程の上でも効率のいい形となります。

- 平岩
- 通常のタルト生地は、薄く延ばした生地を凹の形になるように円形の型に敷いて土台にしますが、その敷き込みの作業もやりやすく、熟達度による差も少なくなりそうですね。
- 遠藤
- そうです。また、半製品を使うことが悪い訳ではありませんが、出来るだけ手作りしたいと思っています。
フランス伝統菓子のパリブレストをアレンジした「パリ-トウキョウ」のプラリネクリームは、ピーナッツを使った自家製プラリネを使用したものです。
- 平岩
- ピーナッツは日本人にとってなじみのあるナッツなので、「パリ-トウキョウ」と名付けたのはぴったりですね。
シンプルそうに見えて、実はオリジナルの工夫を色々とされているというのが、人気の理由の1つなのだと思います。
お菓子を作る時の小麦粉の使い分けについては、どのようにされていますか?

- 遠藤
- たとえばシュー生地には、「カメリヤ」のみを使っています。フランスの粉を使って日本のレシピで作ろうとしても難しい。一番慣れている粉で作るのがいいと思っています。
特別な粉を使っていることを売りにするのではなく、自分たちが目指すお菓子に合った材料を選ぶことを大切にしています。とは言っても、正直なところ、今は色々な粉を使い分ける余裕も無いというのもありますが・・。
パイ生地には「カメリヤ」と「バイオレット」を合わせて使っています。「リスドオル」は、前にも言ったようにヴィエノワズリーに使っていますが、具材の多い「ケークフリュイ」には、しっかりと浮かせるために入れています。
- 平岩
- 卵や乳製品はいかがですか? たとえば、ブランド卵やフランス産のバターを使うなどのこだわりがありますか?
- 遠藤
- 卵は、割卵していると時間がかかりすぎてしまうので、殺菌凍結卵を使っています。
乳製品も、特にフランス産素材を使いたいということはありませんが、発酵バターの香りが好きで、クロワッサンなどにも通常のバターと半々で使っています。
- 平岩
- なるほど。一般的には、効率化のために殺菌凍結卵を使いつつ、ショートケーキのジェノワーズやプリンにはブランド卵を割って使い、それをお客様にも謳っているお店もありますが、こちらでは、ショートケーキもプリンも販売していませんね。考えてみると、フランスのお店でも、「ブランド卵を使っています」とわざわざ謳っていることはまず無いですよね。
特別な素材を使っていることを売りにするよりも、ご自身のこだわりでフランス菓子を表現したいというのは、遠藤シェフらしい哲学だと思います。 最後に、この先、製菓業界を担っていく若い世代の方々に、どのようなことを伝えたいかをお聞かせください。
- 遠藤
- パティシエという仕事に限らないのですが、“覚悟”をもって挑んでほしいと思います。
最近は、組織の中に入って自分の居場所をつくることが苦手、という若い人達も増えたように思います。
今は働き方や価値観が多様化し、自分に合った道を選びやすい時代になりました。その一方で、どんな仕事にも思うようにいかない時期や乗り越えるべき課題があります。そうした経験を一つひとつ積み重ねながら、プロフェッショナルとして成長していってほしいと思っています。
何のためにこの仕事をしているのかと考えると、お客様が喜んでくださるというのが大きなモチベーションなのですが、結果的には自分のためにやっていることなんです。
- 平岩
- 遠藤シェフも、経営者となられてまだ2年ほどでいらっしゃいますが、スタッフの方々とお店を守りながら、ご自身の幸せを実現されつつあるのですね。これからの新たな挑戦も楽しみにしています!今日はどうもありがとうございました。

遠藤泰介シェフ プロフィール
1986年、神奈川県生まれ。
調理師学校卒業後、イタリア料理店で修業し製菓の世界へ。「ピエール・エルメ・パリ イクスピアリ」(現在は閉店)在籍時に2010年「UIPCG(世界洋菓子連盟) 世界ジュニア製菓技術者コンクール」ハンガリー大会で準優勝し、同店のシェフパティシエを務める。その後、「ザ・ペニンシュラ東京」でチョコレートの技術を磨き、「パティスリー カメリア銀座」(現在は閉店)シェフパティシエに就任。多くのファンを得るが、2022年に渡仏。アルザスのルレ・デセール店「パティスリー カム」などで研鑽を積む。帰国後は製菓学校教員も務め、2024年7月に「タイスケエンドウ」独立開業。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2026年04月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。



