近年、ラーメンやまぜそばを中心に「極太麺」を打ち出したメニューが注目を集めています。しっかりとした噛みごたえや小麦の風味をダイレクトに感じられる点が魅力で、細麺や中太麺とは異なる満足感を求める客層から支持を広げています。一方で、スープとのバランスや調理工程の工夫など、極太麺ならではの難しさも存在します。今回は、個性的な極太麺メニューを提供する2店舗を取材し、それぞれのこだわりやメニュー開発の工夫について取材しました。
麦と手
JR中央線・阿佐ヶ谷駅から徒歩8分の場所にある「麦と手」は、厨房で製麺する手打ち麺にこだわったまぜそば専門店。2026年1月にオープンすると多くの層から支持を集め、連日のように売り切れになるほどの盛況を見せています。
麦と手
- 住所
- 東京都杉並区阿佐谷北1-45-10
- 電話
- 非公開
- 営業時間
- 11:00~15:00(L.O14:50)/18:00~20:00(L.O19:50)
- 定休日
- 月・水・金

ニーダーとワインセラーを使った独自の製麺技術


2026年1月、東京・阿佐ヶ谷でオープンした「麦と手」は、隣駅の高円寺で人気を博す混ぜそば専門店「混ぜそば みなみ」のセカンドブランドです。「混ぜそば みなみ」は中太麺を使用していますが、「麦と手」ではしなやかでプリっとコシのある食感が特徴の、厚さ5mm、幅5.5mmの幅広極太麺を提供しています。
「『麦と手』で提供している自家製麺には、日清製粉の道産子Uという小麦粉を使っています。もっちりとして弾力のある麺ができるのが特徴です。混ぜたときに広がるタレと小麦の香り、麺の食感をお客様に楽しんでほしいと考え、この麺に辿り着きました。麺のコシを左右するグルテンの形成に気を配りながら日々製麺しています」
話を聞かせてくれたのは「混ぜそば みなみ」「麦と手」で代表を務める三井航さん。食べログ100名店にも選出された有名うどん店の代表に製麺の基礎を教わり、独自の製麺ノウハウを確立した人物です。
「当店では『ニーダー』と呼ばれる手打麺生地専用のミキサーを使って生地を鍛えています。じっくりと低速で生地を練りつぶすことで、生地の中にしっかりとしたグルテン網をつくることができるのがニーダーの特徴。鍛えと熟成を数回繰り返すことで、生地の内側に生じるグルテン特有の網目構造をより複雑にし、生地の弾力を高めています」
鍛えた生地は、定温管理できるワインセラーで厳密に時間を測って熟成させます。これも三井さんが独自に編み出した製麺ノウハウのひとつです。
「ワインセラーでの熟成は複数回にわたって行い、回数によってグルテン繊維にしなやかさを出したり、締まり具合を調整したりと、目的は異なります。熟成の時間が少しずれるだけで風味やコシに違いができてしまうため、生地ごとにタイマーを設定。ほんのわずかな時間でも大きな違いが出るので、小麦の生地は本当に繊細です」




季節を2周しないと掴めない、麺づくりの手ごたえ
オープンから半年が経った現在。三井さんが麺をつくるうえでいつも思い出すのは、かつて師事したうどん専門店の代表に教わった「季節を2周しないと麺づくりの手ごたえは掴めない」という言葉です。
「季節の変化、日々の気温・湿度の変化への対応は、現在進行形で苦労しています。ワインセラーで生地を熟成させていても、鍛えるときにはキッチンに出さないといけません。そのわずかな時間だけでも麺の食感に違いが生じます。そのため、ワインセラーの温度を1~2℃変えてみたり、加水率を調整したりと微調整の毎日です」
鍛えと熟成を繰り返して完成した麺をお客様に最高の状態で提供するため、ゆで汁のpH度にも細心の注意を払います。
「綺麗な茹で湯は中性で、麺を茹でるとかん水が溶け出してアルカリ性に傾きます。中性に寄りすぎるとかん水が抜けやすく、コシがない茹で上がりの麺になり、アルカリ性に傾きすぎるとハリがありすぎる硬い茹で上がりの麺になります。ちょうどいいPHを保つため、定期的に茹で湯のPHを測定し、PHが低すぎれば茹で湯にかん水を加え、PHが高すぎれば湯を入れ替えて調節しています。」


さまざまなプロセスを経てつくった麺で提供するのは、五香粉をベースに粗挽き黒胡椒とコリアンダーシードをくわえた『スパイス香る台湾まぜそば』や、えびの上品な香りが食欲をかきたてる『えび香る塩まぜそば』などの看板メニューです。このほかにも、台湾まぜそばの残った具材を最後まで楽しむための追い飯や、マヨソース、醤油ダレ、塩レモンダレと3種の味が楽しめるチャーシュー丼など、サイドメニューも充実しています。

連日行列をつくる「麦と手」。その先に見据えるのは、多店舗展開や売り上げの大幅アップではないと三井さんは語ります。
「売り上げは1日100杯くらいでいいんです。今後はSNSなどを活用して、マニアックな製麺工程について多くの人に知らせたいですね。当店の麺はかなり個性の強い麺なので、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、『面白い取り組みをしているな』と思った方にはぜひ一度足を運んでいただきたいですね」
えどもんど 西日暮里店
JR西日暮里駅から徒歩3分の場所にある「えどもんど」。二郎系インスパイアの名店としてメディア取材も多く、若者客を中心に多くの支持を集める名店です。店内の装飾やBGMもポップなイメージで、創業者のこだわりが色濃く反映された雰囲気が印象的です。
えどもんど 西日暮里店
- 住所
- 東京都荒川区西日暮里5-31-9
- 電話
- 非公開
- 営業時間
- 10:30~15:45/17:00~22:45(※材料切れ次第営業終了)
- 定休日
- なし

週一で食べたくなるオーション100%の自家製極太麺


東京・西日暮里にある「えどもんど」は、大盛極太麺、濃厚スープ、野菜たっぷりという、いわゆる二郎系のラーメン店。2020年12月のオープン以降、絶え間なく行列をつくるほどの人気を博し、2023年には中野、2025年には新橋に新たに店をオープンしました。
株式会社えどもんど代表取締役を務める猪又穣さんは、かつて煮干しそば専門店「中華そば いづる」を立ち上げた人物です。煮干しそば専門店から方向転換してえどもんどを開店した狙いについて語ってくれました。
「『中華そば いづる』は、和のテイストを持つ煮干しという素材と向き合い、それを一つの作品として仕上げるような感覚で商品を開発していました。食事としてだけでなく作品を創作するような感覚に近かったですね。一方で、もっと自分らしく、遊び心があり、ワクワクできるようなラーメンを作りたいという思いで開店したのが『えどもんど』。無料トッピングで味変できる楽しさや、調理工程を間近で見られるライブ感など、さまざまな楽しさを組み合わせた店づくりを日々心掛けています」
えどもんどの主役と言っても過言ではないのが自家製極太麺。噛みしめたときに軽く歯を押し返すような食べ応えと、芳醇な小麦の香りが特徴です。
「いろいろな小麦粉を試したなかで、最も小麦の香りが強い日清製粉のオーションに辿りつきました。オーションで製麺すると、香りも強く歯応えも抜群の麺が出来あがるんです。目指すのは週一で食べたくなるような味わい。スープとの兼ね合いを考えながらパンチのある食感を追求した結果、開店当初は切刃番手20番(1.50mm)でしたが、現在は16番(1.88㎜)の太さに変わりました」
また店舗によって、季節や天候よってもかん水の量を意図的に変えて風味や食感に違いを出しています。
「自家製麺であることのメリットは、自由度の高さ。湿度や温度が変わればお湯の沸点も変わりますから、麺づくりや茹で方も変わってきます。だからこそ、店舗ごとの微妙な違いも楽しんでいただけたらうれしいですね」


濃厚な小麦の香りを楽しめる「汁なし」の魅力
麺だけでなく、豚骨醤油ベースのスープもまた、店舗によってわずかな味に違いがあります。猪又さんはそれぞれの店の味の違いを、中野店は「フルボディでグラマラスな味わい」、新橋店は「ドライでソリッドな味わい」、西日暮里店はその中間であると言います。
そして、人気メニューとしてラーメンと肩を並べるのが「汁なし」です。
「ラーメンはスープと麺のバランスが大切ですが、『汁なし』はラーメン以上に麺の風味や食感を際立たせています。特に気を配っているのは、麺を打ってからなるべく早く提供すること。鮮度がいいほうが小麦の香りも強いですから。タレは濃くしすぎず、混ぜたときに香りが立つような味付けにしています」


脂マシも無料で、マヨネーズ、ニンニクもかけ放題。ラーメンも汁なしも、自分好みの味わいにカスタマイズできるのが、えどもんどが多くのリピーターを獲得している理由のひとつです。
また、提供を待つお客様がカウンター越しに調理をしている様子が楽しめるのもポイント。茹で上がった極太麺を湯切りする姿も迫力があります。ラーメンは麺をしっかり泳がせて均等に茹であげた麺を平ざるで湯ぎり。汁なしはテボと呼ばれる籠型のざるを使い、タレとよく絡む麺に仕上げています。



お客様を様々な角度から楽しませるえどもんど。飲食店業界ならではの課題にも直面しながら、常によりよい味をお客様に届けたいと猪又さんは語ります。
「今あるものを高め続けなければ、現状維持さえ難しいのが飲食店の実情です。食材の価格や水道光熱費の高騰、季節の変化にも悩みながらも、『お客様がもっと満足できるメニューを届けたい』という思いで日々営業しています。ラーメンづくりは私にとって人生そのもの。今後も何か新しい試みを取り入れた店舗づくりに挑戦しながら、ラーメン業界をもっと盛り上げていきたいですね」
今回取材した2店舗では、強いコシと存在感を前面に押し出したラーメンやまぜそばなど、極太麺の個性を活かした一杯が提供されていました。そのスタイルは異なるものの、共通していたのは「麺そのものの魅力をいかに引き出すか」という視点。小麦の風味や噛み応えを最大限に感じてもらうために、加水率や製麺方法の工夫に加え、スープの濃度や絡み方まで細かく設計されていました。食べ応えを求める層を中心に支持を広げている極太麺ですが、こうした細かな工夫によって、さらに幅広い層に受け入れられていきそうです。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2026年06月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。
