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進化するご当地ラーメン

1993年の新横浜ラーメン博物館オープン以降、「ご当地ラーメン」の存在は首都圏でもすっかりおなじみになりました。さらに最近では、これまでに出店のなかったエリアからも続々とご当地ラーメンが登場し、細分化・多様化が進んでいます。よりディープに進化するご当地ラーメン、その最新事情をレポートします。
  • キング軒
  • 三代目 藤村商店
  • 麺壱 吉兆
  • 佐賀ラーメン美登里

キング軒

お好み焼きに次ぐ「広島ご当地グルメ」として2010年代に入って注目を集めているのが「広島式汁なし担担麺」です。その代名詞的存在として人気を博す「キング軒」の東京店が2015年、遂にオープン。本場そのままの味が早くも話題を集めています。

キング軒 東京店
住所:東京都港区芝公園2-10-5 シグマビル1F
電話番号:03-6452-9330
営業時間:[月~金]11:00~15:00/17:00~20:00
[日・祝日]11:00~15:00
定休日:土曜

財布にも身体にも優しく、毎日食べても飽きない味

「広島式汁なし担担麺の特徴は、麺が細く茹で時間が短いこと。見た目とは違ってローカロリーであること。そして値段が安いこと。毎日食べても飽きない味であり、お客様の回転も早く、財布にも身体にも優しいから、お昼は週3、4回汁なし担担麺、という人も珍しくありません」。

取材に応じてくれたのは、キング軒の立ち上げにもかかわり、現在は東京店を切り盛りする渡部崇さんです。広島における汁なし担担麺発祥の店とされる「きさく」でその味に衝撃を覚え、自ら研究を重ねて広島市内で「キング軒」を開業したのが2011年11月のこと。以来、支店も増えた人気店が2015年、遂に東京進出。その際、特に意識したのは、本場の味、スタイルをそのまま提供することでした。

「値段もボリュームも広島と全く一緒です。麺もタレも広島で仕込んだものを東京に直送することで、広島の味をそのままご提供しています」。

こだわりの「中細麺」は、その呼び名以上に細く、それでいて延びにくいのが特徴です。

「当店では、広島の店なら客層の4割、東京でも3割が女性です。でも、女性はどうしても完食までに時間がかかります。そこで、時間が経っても最後まで美味しく食べられる麺にしようと、地元広島・廿日市の老舗『口位製麺所』さんと1年半以上の試作を重ね、数種類の性質の違う小麦粉を使うことで、タレがよく絡んで伸びにくく歯ごたえもある麺を完成させました」。

広島で生まれた味だから、ちゃんと広島に貢献・還元したい


広島市内には汁なし担担麺を提供する店は200店以上。専門店がいくつも軒を連ね、社員食堂や街の定食屋でもメニューに採用されています。その中にあって、キング軒ならではの特徴として掲げているのが「山椒」です。

「特に香りを重視しています。その日に使う分量はその日の分だけ朝に挽いています。山椒の実はミカン科に属する柑橘類。柑橘の香りが立つように丁寧に挽くのがポイントです」。

山椒へのこだわりは、挽き方だけでなく配合にも及びます。
「気温に応じて、1年間で4回は山椒の配合を変えています。汗をかくと身体は塩分を欲しますが、醤油の量は変えたくないので痺れを少し多めにすることで味の強さを引き出します。汗をかかない季節は香りを少し多めにします。山椒の味がしっかり効いているから、塩分も低めに抑えることができ、毎日食べても飽きない味になるんです」。

味の追求は山椒以外の香辛料や調味料にも及びます。担担麺の肝である辣油は、味の角を取りつつ辛さを落ち着かせるために最低1ヶ月半ほど寝かせた「自家製五香辣油」。タレの味を決める醤油は広島市にある老舗・川中醤油に特注した「キング軒用醤油」。麺も地元製麺所がつくり、麺の上に加わるネギも地元「倉橋産青ネギ」を採算度外視でふんだんに盛りつけ、「自家製」「広島産」へのこだわりが徹底されています。

「広島で生まれた味だから、ちゃんと広島に貢献・還元したい、という思いがあります。東京でもここまでご支持をいただけるとは正直思っていませんでした。もしお気に召していただけたのなら、次はぜひ広島に行って、現地で『広島式汁なし担担麺』を味わっていただけたら、と思います」。

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三代目 藤村商店

「青森下北ラーメン」の暖簾を掲げ、2015年5月、東京・住吉にオープンしたのが「三代目 藤村商店」です。「中華そば」「つけ麺」「汁なし麺」という多様なメニュー構成とボリュームのあるチャーシューがファンの心をしっかり掴んでいます。

三代目 藤村商店
住所:東京都江東区住吉2-24-6 井手ビル 1F
電話番号:03-6659-6168
営業時間:11:00~23:00
定休日:無休

森下北の味をブランド化し、より多くの方に広めていきたい

言葉や文化などが「津軽」「南部」「下北」の3つに区分される青森県。そんな青森県のご当地ラーメンとしては、煮干をふんだんに使ったスープが特徴の「津軽ラーメン」が有名です。同様に、青森県の北東・下北半島でも煮干を使ったラーメンが親しまれています。
その下北半島の中心に位置し、漁業・水産業で盛んな青森県むつ市で人気のもつ焼き店が「三代目 藤村商店」。この店で煮干を効かせたラーメンを提供したところ人気メニューとなり、「この味は東京でも支持されるのでは?」と、2015年5月、東京・住吉でラーメン専門店「三代目 藤村商店」がオープンしました。

暖簾に掲げた文字は「青森下北ラーメン」。店長の渡辺浩二さんがその狙いについて教えてくれました。

「実は、青森下北ラーメンはこれだ! というものがあるわけではありません。むしろ、ここから青森下北の味をブランド化し、より多くの方に広めていきたいという気持ちです。やっぱり、東京に店を出すというのは、地方の活性化にも繋がってくると思いますので」。

お店の看板メニューはもちろん、煮干をふんだんに使用した中華そばです。
「煮干には青森県産の特級いわし節を使用しています。この魚介スープと、半日炊いた純鶏ガラをあわせたダブルスープが特徴です。青森の人に親しまれている煮干ラーメンはかなり煮干の味が強めなんですが、東京ではもう少しマイルドに仕上げたスープを採用したのも工夫のひとつです」。

見た目と食感、二度驚きのある名物チャーシュー


「元祖魚介の中華そば」「謹製熟成つけ麺」「ヤミツキ汁なし麺」と幅広いタイプの麺が楽しめる「三代目 藤村商店」。麺はすべて、最高級の小麦粉を丹念に練り上げた京都宝製麺所の熟成麺を使用しています。そしてこの店で煮干スープとともに「名物」となっているのが、直径で15cm以上、どんぶりからはみ出す大きさを誇るチャーシューです。

「まず、見た目のインパクトで『おぉ!』と驚かれるお客様が多いですね。そして食べてみると、ホロホロとした食感がご好評いただいています。この『ホロホロ』という食感を実現するまでには何度も何度も試作を重ね、苦労しました。でもその苦労の分だけ、お店の売りのひとつになっています」。

食べ進めながら、常備してある特製ブレンドの「赤龍味噌」をスープに溶かし、味の変化を楽しむのもこの店のスタイルです。

「オープン当初、この赤龍味噌は提供時にスープに加えていました。でも、お客様によって好みは異なります。そこで、後から好きな量だけトッピングできる今のスタイルになりました」。

この“お客様目線”こそ、ラーメンの味とともに「三代目 藤村商店」が支持されるもうひとつの理由です。
「将来的には、現地の特産物を紹介したり、メニューに加えたりすることでお客様に喜んでいただきたいと思っています。その結果として、地元・下北への貢献ができれば嬉しいですね」。

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麺壱 吉兆

福島県白河市で親しまれている「白河ラーメン」。その総本山「とら食堂」直系の味が東京で堪能できる、と人気なのが東京・大井町にある「麺壱 吉兆」です。白河の郷土品・白河だるまが出迎える店は、毎日行列で賑わいを見せています。

麺壱 吉兆
住所:東京都品川区東大井5-6-6
電話番号:03-5460-3358
営業時間:[水・木・金・土]11:30~14:30、17:30~20:30
[日曜]11:30~14:30
定休日:月曜、火曜

「私は品川区出身で福島県とは縁もなく、『白河ラーメン』というものは全く知らなかったんです。ところがある日、たまたま横浜で入ったお店が白河ラーメンの総本山『とら食堂』の直系店。そこで初めて白河ラーメンを食べました。その味が本当に美味しくて、感動しましたね」。

かつてサラリーマンだった木村吉之さんは、その偶然の出会いをキッカケにサラリーマン生活に終止符を打ち、修行を重ねて自ら白河ラーメンの店「吉兆」を出すに至りました。

白河市内には100店舗以上あるという白河ラーメンの専門店。ただ、東京で本格的な白河ラーメンを提供する店はほとんどありません。その理由として考えられるのは、白河ラーメン最大の特徴である「多加水の幅広縮れ麺」を手打ちでつくることの難しさです。

「とにかく、麺を打つのが仕事です。毎朝4時から青竹を使って麺を打ち続けています。それでも、1日分には足りないので、定休日の月曜と火曜も麺を打っています。お店は休みですけど、麺打ちに休みの日はありません。本当に体力勝負ですが、もちもち感のある麺を生み出すためには、どうしても外せない工程です」。

麺の美味しさ、品質にこだわりと自信があるからこそ、店の看板には店名よりも大きく「青竹平打ち」の文字が踊ります。

麺、焼豚、スープが三味一体となって完成する吉兆の中華そば


毎日精魂込めて手打ちした多加水麺に加え、フチの赤い昔ながらの焼豚、鶏ガラを主体とした醤油ベースの澄んだスープが白河ラーメンの特徴です。

「焼豚は、炭火でじっくりと火を通しながら、肉から垂れた脂で生まれる煙で燻し、その後、醤油で煮ています。スープでこだわっているのは材料の量です。鶏が8割、豚が2割。化学調味料は使わず、4時間ぐらいかけて炊いています。化学調味料を使えば材料の量はそこまで必要ないし、ある程度の美味しさにはなるんです。でも、その上の美味しさを生み出すには、素材から引き出すしかないと思います」。

麺、焼豚、スープが三味一体となって完成する吉兆の中華そば。その味わいはまさに「正統派白河ラーメン」であるにもかかわらず、吉兆では店頭の看板、メニュー表記のどこにも「白河ラーメン」の文字はありません。

「以前は『白河ラーメン』の文字を出していたんですが、5年ほど前に大井町に移転してからは出すのをやめました。どんなに美味しいラーメンつくっても、『吉兆って美味しいね』じゃなく、『白河ラーメン美味しいね』で終わっちゃうんです。それが悔しくて(笑)。だけど、正真正銘、100%白河ラーメンです。私が最初に味わったあの感動、これまでの経験をこれからもしっかりお伝えしたいと思います」。

たとえ「白河ラーメン」をうたわなくても、口コミで広がる美味しさは紛れもなく本場の味わい。毎日途切れることのない行列が、「吉兆って美味しいね」という証です。

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佐賀ラーメン美登里

博多ラーメン、久留米ラーメン、熊本ラーメンなどで賑わい、“豚骨王国”とも呼べる九州にあって、まだあまり知られていないのが「佐賀ラーメン」です。地元の人気店「精養軒」の流れを汲む本場の味わいは、地元客からも観光客からも支持を集めています。

佐賀ラーメン美登里
住所:東京都台東区浅草4-24-1
電話番号:03-6754-2652
営業時間:[月・火] 11:30~14:30
[木・金] 11:30~14:30、19:00~21:30
[土・日・祝] 11:30~16:00、17:00~21:30
定休日:水曜

長時間熟成し、極限まで乳化を抑えたスープ

一般的に油分の多い料理においては、水と油を一体化させる「乳化作用」が味の決め手、といわれます。濃厚な豚骨スープであれば、なおさら「乳化」は欠かせません。ところが、「佐賀ラーメン美登里」の豚骨スープは、全く別ものだといいます。

「当店の豚骨スープの一番の特徴は、極限まで乳化を抑えていることです。これは、佐賀ラーメンの中でも、昔ながらの製法だと思います」。

取材に答えてくれた店長の井田智希さんが、乳化を抑えるその独特の製法を解説してくれました。

「一般的な豚骨スープは、大量の豚骨を一気に炊き込み、文字通り骨の髄まで溶かすことで濃厚なスープが生まれます。一方、当店では豚の香りとエキスだけを抽出し、それ以外は全て排除する製法です。そのため、とにかく時間がかかります。一度炊いたあと、一晩寝かせることで熟成させ、さらに創業時からの釜に足すことでようやく完成します。老舗の鰻屋さんが秘伝のタレを継ぎ足しているのと同じスタイル、というとわかりやすいかもしれません」。

そんな乳化を抑えたスープだからこそ、夏限定の名物メニューが生まれます。

「当店では、夏に『冷やしラーメン』を出しています。ラーメンのスープは冷やすと油が固まってしまうため、なかなか難しいジャンルです。でも、当店の冷やしスープは普段提供しているスープを冷蔵庫で冷やすだけ。要は、それくらい油が少ない、ということなんです」。

佐賀ラーメン」を掲げるからこそ、佐賀の材料にこだわりたい


豚骨スープとは思えない、優しくほのかに甘みのある味わいが特徴の「佐賀ラーメン美登里」。そのスープ以外でも、麺、具材、調味料に至るまで、「佐賀ラーメン」を掲げるからこそのこだわりがあります。

麺は佐賀県で初めてラーメンの麺をつくった老舗「畑瀬食品」から取り寄せたもの。その麺を大釜で踊らせるように茹でることで、コシがありのど越しが良い麺に仕上がります。

醤油は佐賀市にある明治創業の老舗「池田醤油醸造店」がつくるラーメン専用醤油。九州らしい甘くまろやかさのある醤油は、長時間かけてつくった熟成スープと合わさることで美登里独特の優しい味わいのスープへと昇華します。

調理の最後にトッピングされる海苔は、有明海で採れる最高級の有明海苔。高級海苔だからこそスープに自然と溶け込み、深い香りを味わうことができます。

お米は佐賀米を使用。特製の鉄釜で炊き上げたご飯でつくるチャーハンや稲荷寿司とのセットメニューも人気です。卵かけごはんで使う醤油ももちろん佐賀の醤油。「懐かしい味!」と喜んでくださるお客様は多いです、と井田さんは語ります。

「お酒と一緒で、その土地の水でつくるからこそ生まれる味わい、というものがあると思います。その差はほんのわずかなものだと思いますが、食べ比べるとやっぱり違いがわかります。佐賀の看板を出している以上、佐賀の材料にはこれからもこだわっていきたいですね」。

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今回は広島、青森下北、白河、佐賀という4つのご当地ラーメンを取り上げましたが、共通していたのは「地元にも還元していきたい」「本場の味を大切にしたい」という地元愛でした。だからこそ素材へのこだわりが生まれ、麺やスープへの愛情・探究心もより深まっていくのではないでしょうか。今回取り上げた地域以外でも、たくさんの「新ご当地ラーメン」が続々と生まれています。今後もご当地ラーメンからは目が離せそうにありません。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年3月)のものです

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