近年、独自の激辛麺・旨辛麺を提供するお店が増えています。辛さによる発汗作用などから、通常の麺料理に比べてヘルシーなイメージを持つ人も多く、若者や女性客を中心に人気を集めています。今回は「辛い麺」を提供する3つの人気店を取材し、各店のこだわりやメニュー開発の工夫をお聞きしました。
元祖辛麺屋 桝元
小田急線・京王井の頭線下北沢駅近くにある「元祖辛麺屋 桝元 下北沢店」。宮崎県延岡市発祥で今や全国的に有名なご当地麺「宮崎辛麺」を堪能できるお店です。本店は宮崎県延岡市にあり、宮崎県および九州に広く展開していますが、関東にも15店舗を構えています。
元祖辛麺屋 桝元 下北沢店
- 住所
- 東京都世田谷区北沢2-14-7 1階
- 電話
- 03-6805-2066
- 営業時間
- 【月~木、日】12:00~24:00(L.O.23:30)
【金、土、祝前日】お昼の部12:00~15:00(L.O.14:30)/中休み15:00~18:00/夜の部18:00~29:00(L.O.28:30) - 定休日
- 年中無休
辛さと旨さを追求した「辛麺」
下北沢駅からすぐ、活気ある商店街に店を構える「元祖辛麺屋 桝元 下北沢店」。ご当地グルメとしても人気の「宮崎辛麺」専門店として“元祖”の味を掲げるお店です。
「もともとは居酒屋の〆の料理として提供されていたのが辛麺の出発点。ひき肉・ニンニク・卵・ニラ・などたくさんの具材と醤油ベースのスープが一体となり、そこに唐辛子を加えることで『辛いけど美味しい』を追求しています。また、好みの辛さを選べることで幅広いお客様に楽しんでいただけているのかなと思います」
そう語ってくれたのは首都圏事業部の部長を務める長曽我部隼平さん。選べる辛さは、メニュー上では0辛〜30辛まで。注文があれば30辛以上にも対応可能です。
「辛いのが苦手な方にはまったく辛くない0辛をご用意しています。一番人気なのは3辛〜5辛でピリっと辛いくらい。辛いもの好きな方は15辛くらい。30辛を頼む方もいらっしゃいますよ。ただ、どの辛さであっても、辛さの奥に美味しさをしっかり感じていただけるバランスを意識しています」
メニュー表では、15辛なら「汗がにじむほどの辛さ」、20辛なら「汗が出る出る」、30辛なら「一口目で汗が出る!」と、汗の量とともに辛さを表現しているのが特徴的です。
選べるのは辛さだけではありません。麺の種類も「韓国麺(こんにゃく麺)・中華麺・太麺」の3つから選択可能です。
「こんにゃく麺は冷麺のような食感で、実際にこんにゃくを使っているわけではないのですが、そば粉と小麦粉を組み合わせた麺で、一般的なラーメンの麺よりは低カロリー。発汗を促す辛いスープに加え、このこんにゃく麺の存在もあって、健康志向のお客様からもご好評をいただいているのかもしれません」
顧客の層や地域に合わせて店舗が自由に工夫
味は定番の「元祖辛麺』に加え、トマトの「酸味」と「辛さ」が溶け合う『トマト辛麺』の他、味噌のコクと辛さが融合した「みそ辛麺」に、期間限定メニューが加わるラインアップ。店舗によっては、豆乳ベースのマイルドな味わいが魅力の「白い辛麺」、カレーのスパイスが唐辛子の辛味と相性抜群の「カレー辛麺」も選べます。
「福岡は豚骨ラーメン文化なので細い中華麺がよく出ます。関東では家系ラーメンの影響もあるからか太麺を頼むお客様が多いです。味に関しては、どの店でも『元祖辛麺』が一番人気ですが、2番手は地域によって変わります。宮崎ではトマトラーメンも人気ということもあって『トマト辛麺』が2番人気。関東では味噌ラーメンファンも多いからか『味噌辛麺』が人気です」
下北沢店は若者の街という土地柄もあり、20〜30代のお客様が最も多く、全体の7割近くは女性客だと言います。
「実は女性のほうが辛いもの好きな人は多い、とも言われますが、その傾向が色濃く出ていますね。そのため、髪ゴムや紙エプロンを用意していますし、店舗によってはカウンター席に一席ずつ仕切りを置くことで、女性1人でも来やすい店づくりを目指しています」
下北沢店では女性を意識した店舗づくりを心がけていますが、出店した土地・地域に応じてさまざまなカスタマイズを徹底しているのが「元祖辛麺屋 桝元」のこだわりです。
「メインとなるメニューはどこも一緒ですが、客層に合わせてお酒の種類を増やしたり、おかずをつけた定食のようなセットを販売したりと、各店舗の店長の裁量に任せられている部分も多いです。目指しているのは、日本一の辛麺屋。4年ほど前からいくつか首都圏にも出店してきましたが、1店舗しかない大阪などにも出店を増やしていくことでゆくゆくは全国で宮崎の辛麺を提供していきたいです」
175°DENO 担担麺
東京・新宿駅からほど近くにある「175°DENO 担担麺 TOKYO」は中国四川省発祥で日本でも大人気な「担担麺」の専門店です。「175が痺れを世界へ」を掲げ、北海道札幌市の本店を含めて道内に6店、都内に2店、福島県に1店を出店しています。
175°DENO 担担麺 TOKYO
- 住所
- 東京都新宿区西新宿7-2-4 新宿MSビル1階
- 電話
- 03-6304-0175
- 営業時間
- 11:00~22:00(L.O.21:45)
- 定休日
- なし
“担担麺の専門店化”で本物の辛さと痺れをリーズナブルに
さまざまな料理店がしのぎを削る東京・新宿で、担担麺専門を掲げる「175°DENO 担担麺 TOKYO」。コンセプトは「高級中華料理店が出す担担麺を、専門店化することで1,000円近くのリーズナブルな値段で提供すること」だと言います。創業者で代表取締役社長の出野光浩さんは、開業当時を懐かしそうに語ってくれました。
「まだ修行中だった21歳の頃、別の中華料理店が麻婆豆腐1本で勝負していたのを見て、1品を究極に極めた店でお客様を喜ばせたいと考えました。元々、麻婆豆腐と担担麺が好きでしたが、将来的に多店舗化するにあたって、麻婆豆腐は調理工程が多いので味がブレやすく、味の標準化も難しい。スタッフが誰でも味を引き継ぎできるよう、麺で勝負しようと思いました」
立ち上げ前から店舗展開を見据え、将来のビジョンを描いていた出野さん。現在、その計画通りにどの店でも同じ味、同一価格で多くの支持を集めています。
「店舗で味に関わる仕込みは自家製調味料で炒める炒醬肉(ザージャンルー:担担麺にトッピングするひき肉)くらい。タレやスープはセントラルキッチンで作り、店舗ではオーダー後に味付けしない。ここが多店舗化における味の標準化で一番重要です」
もちろん、調理工程だけでなく、食材すべてにもこだわりがあります。
「ラー油・甜麺醤・豆板醤・豆豉醬・山椒の油など全て当店オリジナル。ちなみに、ラー油を作る際に唐辛子に合わせる油の最適な温度を検証した結果が175度で、これが店名の由来です。痺れの肝である山椒は、担担麺発祥の地である四川省で直接買い付けた四川花椒なので、日本で一般的に流通しているものよりも香りも痺れも良いです。担担麺に合う調味料を作っているのがうちの強みだと思います」
注文の際は、シビれは花椒の量に応じて「0〜4」の5段階に加え、花椒三種盛の「Special」から選択可能。辛さは「0〜5」の6段階で、「辛さ5」は通常の10倍もの辛さがあるため、激辛好きのファンにも応える辛さになっています。
「創業時に比べ、シビれを多めに注文するお客様も増えました。フレンチのようにお客様の舌が育ち、慣れていくことで、より刺激を求めてくださるのだと思います」
一番人気の汁なし担担麺、妥協なしの二郎系コラボ
新宿店では「汁なし」「汁あり」の2種類の担担麺に加えて、二郎系の「一七五郎」を提供しています。
「汁なし・汁ありの注文割合は、夏は汁なしが多くて2:1、冬は1:1くらいです。汁なしは平打ち麺で、汁ありは細麺です。一七五郎はラーメン業界内で市場規模の大きい二郎系と担担麺をコラボしようと開発しました。なんちゃってコラボではなく“ここまで本気でやったんだ”と思ってもらえるように、多くの二郎系と同じ小麦粉『オーション』を使用した麺、野菜の量やチャーシューにもこだわりました。もちろん、ニンニク・背脂・野菜はマシも対応しています」
また、夏場は期間限定の「冷やし担担麺」も人気です。
「これまで30品ほど期間限定を開発してきましたが、冷やしの汁あり・汁なしが期間限定のメインです。冷やしも含めて、痺れと辛さをカスタマイズできるようにしています」
ラーメン業界では非常に珍しく女性が半数近くを占めると言い、女性客も入りやすいように店舗設計にもこだわっています。
「店舗の内外装は黒か白で女性も入りやすいモダンな作りにしています。席の間隔も一般的には60センチと言われていますがうちでは75センチにしています。そういった工夫も支持をいただけているのか、『普段ラーメンは食べないけどこの店の担担麺は好き』
という女性客も多いです。ごまベースで体に良さそうだし、汁なしはパスタ感覚で食べられるからかもしれません」
現在は札幌を中心に9店舗出している「175°DENO」ですが、今後の目標もはっきりとしています。
「現在はわんたん麺にも力を入れ、別の業態の展開(赤坂中華 わんたん亭)もしていますが、担担麺は国内でも100店舗ほど増やしていきたい。また、国外についても、中国発祥の料理に日本のラーメン技術を加えて世界に発信していけば、多店舗展開できると考えています。アメリカやヨーロッパなどのエリアで50から100店舗を展開していきたいです」
麺屋 周郷
東京・新橋にある行列ができるつけ麺専門店「麺屋 周郷」。その2号店で、「辛いつけ麺」に特化したのが神田駅近くにある「麺屋 周郷 神田店」です。平日はサラリーマン、週末は家族連れで賑わい、夜はラー油を生かした辛い麺でも人気を博しています。
麺屋 周郷 神田店
- 住所
- 東京都千代田区神田2-9-11
- 電話
- 070-9010-2717
- 営業時間
- 11:00~15:00(L.O.14:30)/17:00〜21:00(L.O.20:30)(月・火・木・金)、
11:00〜15:00(L.O.14:30)(水・土) - 定休日
- 日曜日
ラーメンと和食、辛さと旨さが融合したこだわりの辛いつけ麺
神田駅西口の商店街に店を構える「麺屋 周郷 神田店」。新橋にある本店で人気のつけ麺も味わえますが、辛いつけ麺(赤つけ麺)で勝負するお店です。
「新橋の本店を開く前に営業していた江戸川区小岩の店では、様々なつけ麺やラーメンを提供していて、辛いつけ麺が非常に人気でした。本店開業後に、今のスープに辛みを合わせたらどうなるのかと模索した結果、辛いつけ麺専門店を出すことに。あえてつけ麺だけ、味も辛い「赤つけ麺」を主力商品として絞ることで、日々ブラッシュアップしています」
神田店を立ち上げた経緯を語ってくれたのは創業者の周郷寿克さん。こだわり抜いたつけ麺には、ラーメンだけでなく和食のエッセンスもたっぷり注がれています。
「つけ麺専門店だからこそ、麺や具材、スープ、割りスープなど全ての細部にまで妥協しません。麺は福岡県産小麦粉を100%使用した特注麺で強いコシが特徴です。スープは豚と鶏や、魚介や干し椎茸、昆布の旨みを加えています。出汁の取り方一つで味が変わるため、出汁ソムリエの勉強もしました」
その妥協のない姿勢で生み出したのが、神田店だけで食べられる辛さと旨さの融合を売りに出した「赤つけ麺」です。
「唐辛子をスープに加えるだけだと単調になってしまうので、辛み・コク・旨み・香りのバランスを大事にしています。これらのバランスの微調整は専門店ならではの強みだと思っています」
赤つけ麺に使用する自家製ラー油の開発には非常に苦労したと周郷さんは言います。
「赤つけ麺のラー油は辛さより香りを重視していて、香味野菜と、その日の朝に店内で挽いて香り高いスパイス、リンゴのブランデー(カルバドス)、4種類の唐辛子を使っています。唐辛子は開発段階では国産一味唐辛子と韓国唐辛子だけを使っていたのですが、食べた瞬間の風味と辛さの中の旨みを求めて、四川料理で使う朝天唐辛子と、さらに辛い満天唐辛子も加え、しばらく寝かせることで辛さの中に旨みや香りが生まれています。このラー油に合わせてつけ汁のカエシも本店とは違う仕様になっています」
辛さを引き出す自家製ラー油へのこだわり
神田店で提供する「赤つけ麺」は、辛さのカスタマイズも可能です。昼営業では、辛さ少なめ・普通・多めの3段階に加え、辛さなしも選べます。
「注文割合は辛さなしが3割、3種類の辛さありが7割です。“多め”は、辛いもの好きの方でも満足してもらえる辛さがありつつ、旨みや香りを楽しんでいただけるギリギリのライン。“普通”は辛いものを普段あまり食べない方でも美味しく召し上がっていただける辛さを目指しました。また、辛さが苦手な方でも楽しめるように卓上にぶどう山椒オイル、さらには昆布と煮干しの2種類のお酢も用意しています」
夜営業では辛さ多めが選べない代わりに、激辛好きの方に向けて「キャロライナリーパー」「トリニダード・スコーピオン」「ブートジョロキア」「ハバネロ」の4種類の限定ラー油を販売。いずれも過去に「世界一辛い唐辛子ギネス記録」の認定を受けた唐辛子がベースです。なかでも、昨年まで世界で最も辛い唐辛子としてギネス認定されていたキャロライナリーパー使用のラー油は、スープに少し垂らしただけで猛烈な辛さです。
「専門店らしく、様々なスパイスを使って提供できたら面白いなと思って作りました。その中でも、激辛好きの方にも満足してもらえるように、世界でも屈指の激辛唐辛子を揃えました」
調理工程はもちろん、素材にもとことんこだわる姿勢は、提供するつけ麺だけでなく、接客にも取り入れられています。
「元気で丁寧な接客を心がけていて、お客様にはまるで和食を食べているかのように感じてもらいたいと思っています。お店の内装、つけ麺の味、割りスープ全てで驚いてもらい、最初から最後まで飽きないアトラクションのようなお店を目指しています。具材やスープは日々変わっていて、オープン当時よりもっと美味しくなっていると思います。料理に完成はないので、今後も躊躇なく変更して最高の一杯を追求していきます」
今回取材した3つの店は、宮崎に根付いた辛麺、本場中国のスパイスを使った独自の担担麺、和食とラーメンを組み合わせた辛いつけ麺など、提供する辛麺の形は様々でした。しかし、3店では共通していたのは、あくまでも本筋は旨さを追求していること。旨さと辛さのバランスを重視しつつ、お客様が選べる楽しさも重視していました。現在の辛い麺人気の中心は若者や女性ですが、辛さの調節や接客の工夫で老若男女に普及しつつあります。今後はより幅広い層をターゲットにしながら、ますます発展していきそうです。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年07月)のものです