渋谷駅新南口から徒歩3分の明治通り沿いに「The Sandwich House 55」があります。店舗のデザインは、古きよきものを再発見して新しいムーブメントを生みだすNYブルックリンのイメージ。味と素材と伝統的なスタイルにこだわった55種類のサンドウィッチを提供しています。
今でこそ、サンドウィッチはコンビニでも買えるお手軽食のイメージですが、日本では高度成長期の1970年頃にサンドウィッチブームが起こりました。当時のサンドウィッチは洋食メニューの1つとして丁寧につくられ、美しく盛りつけられたおしゃれな食べ物でした。同店では、洋食の経験豊富で当時をよく知る遠井さんと平良さん、ホテルフレンチのシェフを務めた佐藤さんの3シェフがタッグを組み、55種類のサンドウィッチを提供しています。2014年7月のオープンまでに1年以上の時間をかけて素材を選び、試作を重ねてメニューを練り上げていったそう。
その特長は、徹底して「素材からの手づくり」にこだわっている点です。「ローストビーフやローストチキン、ハンバーグのパテはもちろんのこと、サーモンフライはサーモンまるごと1尾をおろしてつくり、エビフライのエビは殻をむくところからつくっています。ソース類ももちろん自家製で、洋食店のこだわりをサンドウィッチという形にしました」(遠井さん)。
自慢のローストビーフは、国産牛や輸入牛をさまざま試した中から脂肪がほどよい米国産ストリップロイン(サーロインにあたる部位)を選び、店内で1時間ほどかけて焼き上げています。
パンはサンドウィッチの具材・ボリュームに合わせて6種類を使い分けています。白パン、イギリスパン、ブリオッシュ生地の食パン、ドッグパン、バーガー用バンズ、フォカッチャと、全て同店専用に特注しています。
同店で人気の「ローストビーフ」は、ほどよいきつね色にトーストした食パンに辛子バターを塗り、ローストビーフは自家製カクテルソースと交互に3段重ねに。パンのみみは、焼き色を残しつつ食感を少しやさしくする程度に切り落とします。ローストビーフのサンドウィッチは、「5(ファイブ)カット」が伝統のスタイル。食パンの端からまず長方形を1つ切り取り、対角線で4つの三角形に切り分けます。「5カットにしてもボリューム感が出るように、食パンはひとまわり大きいサイズに、また、パサつかないように保湿力を高めた配合で特注しています」(遠井さん)。
ほかではなかなか味わえないおいしさが好評の「モンテクリスト」。フランスのクロックムッシュがアメリカやカナダに渡って進化したサンドウィッチで、3枚のパンの間に具材をたっぷりはさんであります。「このサンドウィッチは『甘み』がポイントです。パンは、バターや卵を使ったリッチなブリオッシュ生地で、上下の2枚はこれをはちみつ入り卵液に浸してフレンチトーストに。しっとりやわらかく、ほのかな甘みとコクがあります。3枚ともフレンチトーストにすると、やわらかくなりすぎてしまうため、真ん中の1枚は普通のトーストにしています」(遠井さん)。
こちらは、対角線から少しずらしてナイフを入れて、ボリューム感の出る四辺形のカットにし、ピックで留めます。カナダやアメリカではメープルシロップをかけたり、生クリームを添えたりしますが、同店では自家製の季節のフルーツジャムを添えています。「ハムやチキンなどシンプルな具材にフルーティな甘みが加わることで、この一品のおいしさが完成するのです」(遠井さん)。
すべてのサンドウィッチには、付け合せにさつまいもチップスが添えられています。甘みの多い紅はるかを使い、カリッカリの食感に仕上げています。
「Qino's」(キノーズ)は茗荷谷駅から徒歩6分ほど、播磨坂桜並木のすぐ近くにあるニューヨークスタイルのサンドイッチとタルトの店です。2011年3月に本郷から現在の店舗に移転し、法人向け・大口のデリバリーをメインにしていますが、個人のお客様向けのデリバリーやテイクアウト、できたてサンドイッチのイートインも好評です。
アメリカ在住経験のあるオーナーの木下也寸志さんは、エネルギッシュな都市NYのサンドイッチ、なかでもパストラミのおいしさにほれ込みました。ぜひとも日本の方々にも紹介したいと、いわばパストラミのためのサンドイッチ専門店を始めたそう。
パストラミとは、塩漬けにした牛肉を燻製にし、ブラックペッパーなどの香辛料をまぶしたもの。「日本ではまだ馴染みが薄く、NYにあるような本格的なパストラミをつくってくれるところを100軒以上訪ね歩いて見つけました。牛肉のうまみをしっかりと熟成させたものを月に200kgほど特注しています」(木下さん)。
25種類ある同店のサンドイッチの中で、パストラミをふんだんに使った人気メニューが「NYルーベン」です。ルーベンサンドとは、ライ麦パンにパストラミとザワークラウトなどをはさんだNYの定番サンドイッチ。同店では、普通のパストラミサンドイッチの2倍量のパストラミに、ザワークラウト、チェダーチーズとマスタードを合わせています。「熟成肉特有の暗い赤い色で、見た目こそあまりよいとは言えないのですが、肉を盛りに盛った姿に惹かれるのでしょうね。パストラミは初めて、というお客様からもオーダーいただくことが多いです」(木下さん)。
「NYルーベン」を始め、同店のすべてのサンドイッチにはオリジナルの十穀イギリスパンを使っています。「うちのサンドイッチは、時間が経ってもおいしく食べられるように、どれもしっかりとメリハリのある味つけにしています。普通の白いイギリスパンでは具材の味にパンが負けてしまう。この十穀パンは、ゴマやアマランサスなど穀物の上品な香りと味があり、パンだけで食べてもおいしいですし、具材をはさんでもパンのおいしさをしっかり味わっていただけます」(木下さん)。
ローラートースターでパンの両面を焼いて香ばしさを出し、パンそのものの豊かな味を活かすためにバターなどの油脂類は塗らず、マスタードとマヨネーズでアクセントをつけています。
「そして、サンドイッチは『酸味』のバランスが重要です。マヨネーズだけで酸味を決めるのではなく、マスタードは2種類使っていますし、フルーツやトマト、ピクルス、ザワークラウトの酸味、チーズにもほのかな酸味があります。パンと肉などの具材を、酸味の加減でバランスよくまとめています」(木下さん)。
ベジタブル系のサンドイッチも同店の人気メニューです。
「グリルドベジ」は、ナス、ズッキーニ、パプリカ、グリーンアスパラガスを鉄板で炙り、ビネガーベースのソースをかけて蒸し焼きにしています。焼き野菜のカラフルさに加えて、ゴーダチーズとフレッシュなレタス、アルファルファで彩りも美しく、食べごたえがあります。
「ナストマトチリベーコン」は、同じくビネガーソースで味付けしたナスとパプリカのグリル、トマト、ベーコンにチリソースで辛みを加えたスパイシーホットなサンドイッチです。
具材をたっぷりはさみ、ざっくり半分に切ったら縦に重ね、ピックで留めるのがNYスタイル。アメリカンコミックに出てくるような立体的なボリューム感と、具材が何層にも重なった断面はインパクトも抜群です。
オーナーはアメリカ人の声優レニー・ハートさん。アメリカ大使館宿舎や、外資系企業も数多いエリアにあり、カジュアルな雰囲気の店内ではごく自然に英語でのやりとりが交わされています。もちろん日本語でのオーダーもOK。ボリューム満点のサンドイッチは、B.L.Tやハム&チーズなど定番のクラシック9種と同店オリジナルが19種あり、イートイン、テイクアウトのほか、平日のみデリバリーも行っています。
店名の「earl(伯爵)」は、18世紀にサンドイッチを発案したと伝えられている、イングランドの第4代サンドイッチ伯爵にちなんでいます。英国発祥のサンドイッチは時を超え、姿かたち、はさむ具材を変えて世界中のさまざまな国と文化に溶け込んで、とてもポピュラーな食べ物になっています。「うちのサンドイッチは、世界中のサンドイッチからアイデアをもらって、パンと具材とソースの絶妙なコンビネーションでオリジナルなおいしさをつくり上げています」そう語るのは、オーナーとともにサンドイッチをデザインし、店のマネジメントと調理を預かるマルコム・マーズさん。
同店では、5種類のパンとトルティーヤを具材に合わせて使い分けています。食パンはライブレッド、ピタは全粒粉など、どれもナチュラルな色合いの素朴な姿をしています。「サンドイッチにパンはとても重要。私たちがつくりたいサンドイッチにいちばんぴったりくるパンを、食感とテイストで選んだらこのようなラインアップになりました」(マルコムさん)。
メニュー名は、地名やキャラクターでサンドイッチのイメージを表現。例えば「アメリカ」は、クリスマスや感謝祭に七面鳥を食べる米国の伝統がヒントになっています。「メインの具材はターキー。塩コショウなどを一切しないで、丸ごとオーブンでローストします。ターキーは純粋にターキーそのものの味だけで、ほかの具材やソース、キャラメリゼした玉ねぎなどのトッピングと一緒になって、サンドイッチ『アメリカ』ができあがるのです」(マルコムさん)。
同店では、具材に合わせて17種類のソースをすべて自家製でつくっています。ほかでは出会えない味に興味を持たれたお客様から「ソースだけの味見をさせて」と頼まれたこともあったとか。詳しいレシピは企業秘密ですが、ソースに何が入っているかは教えてあげたそう。
人気メニューの「バムシェル」は、ベジタリアン向けのラップサンドです。ちなみに「bombshell」(爆弾)は、「スタイリッシュで魅力的な女性」を表すスラング。具材はチーズとクマラ芋、アボカド、レタス、赤玉ねぎ、セロリ、トマト、アルファルファです。クマラ芋はさつまいものことで、マルコムさんの出身地ニュージーランドでの呼び名なのだそう。ソースは何種類かのスパイスとカレー、蜂蜜などでつくった「サファリ」。酸味と甘みのバランスがよく、控えめにカレーが香ります。直径30cmほどのトルティーヤに具材を山盛りにのせ、ギュッと押さえながら巻いていきます。
ぎっしりと詰まった野菜にソースがからまり、アボカドのクリーミーさとさつまいもの甘さ、チーズのコクで、野菜がメインと思えないくらいの満足感があります。
「ジャンゴ」は、自家製のローストチキン、ベーコン、チーズ、アボカド、フレッシュ野菜のサンドイッチです。チリの入ったバーベキューソース風のピリ辛で濃厚なジャンゴソースが淡白な鶏肉によく合います。こちらは大きなピタパンを使用して、かなりのボリュームです。
「うちのサンドイッチを見て『too much!!』と驚かれるお客様も多いのですが、大丈夫。半分召し上がって、半分テイクアウトもしていただけます。各メニューとも、いちばんよく合うパンでつくるのが基本ですが、お好みのパンに変えることもできますし、具材だけのサンドボウルという形でもお出しできます」(マルコムさん)
かつて閑静な住宅街だった代官山の、ランドマーク的存在であるヒルサイドテラス。1973年のC棟開業当初からここに店を構えているのが「トムス・サンドウィッチ」です。店内奥の大きな窓の向こうには年代を感じさせる木々の緑が豊かに広がり、21種類あるボリューム満点のサンドウィッチを目当てに数多くのお客様が訪れる老舗店です。
店主の佐藤友紀さんは、若いころに仕事で滞在したNYで、分厚いパンに具材をたっぷりはさんだサンドウィッチに出会いました。帰国した当時、日本にあったのは小ぶりのティーサンドばかり。そこで、NYでいつも食べていたような、食事として十分に満足できるサンドウィッチの店をご自身で立ち上げたのです。以来42年間、佐藤さんはキッチンで腕を振るい、「安心して食べられる素材、自分が食べておいしいと思うものだけを使って、毎日食べても食べ飽きないサンドウィッチ」をつくっています。
「パンは、『ヒルサイドパントリー』で焼いているバタールと2種類(白パン・胚芽入り)のイギリスパン。うちのサンドウィッチに合わせて特注しています。イギリスパンは厚めにスライスし、鉄板で焼くのがこだわりです。短時間で表面がカリッと焼けますから、パンの内部に水分を閉じ込めて、トースターで焼くのとはふわふわ感がまるで違います」(佐藤さん)。
丁寧に磨き上げた鉄板で焼く、厚切り牛サーロインのサンドウィッチは「ステーキ」。肉系は、ほかにも「ホットコンビーフ」「ミートローフ」「ポーク」などがあり、具材のコンビーフやミートローフ、マヨネーズやソース類などはすべて自家製です。「今でこそ業務用のさまざまなものが簡単に手に入りますが、開業当時は自分でつくるしかなかったですし、今も同じように納得のいくものをつくり続けています。コンビーフだって、もとは肉を保存するための家庭料理。いろいろなレシピがありますが、うちでは牛肩バラのかたまり肉を20種類ほどのスパイス・ハーブと一緒に8時間以上煮込んでいます」(佐藤さん)。
定番中の定番「BLT」は、同店でも根強い人気があります。シンプルなだけに素材選びは重要です。「ベーコンは、入谷の太田ハムのものを使っています。保存料などを使わない昔ながらの製法で、豚肉の旨みが濃く、ほどよいスモークの香りが特長。鉄板で焼くときに、お鍋の蓋でギュッと押さえて、余分な脂を落とします」(佐藤さん)。
レタスの葉を器のようにしてたっぷりの自家製マヨネーズ、トマト、ベーコンをのせ、バターとマスタードを塗ったパンではさんで出来上がり。「はさむ」というより具材山盛りのオープンサンドにもう1枚、バターをたっぷり塗ったトーストを「添える」といった風情で、カリカリに焼いたベーコンの香りとおいしそうな色合い、野菜の瑞々しさに魅了されます。
バタール1/2本を使ったサンドウィッチは「ヒーロー」。縦に切り目を入れて、レタス、トマト、太田ハムのボンレスハム、サラミ、プロセスチーズを豪快にはさみ、自家製卵ペーストをたっぷりのせてあります。「カットせずにこのままで、まずは目で楽しんでいただいています。そのあとは、『サンドウィッチとの闘い!!』とおっしゃるお客様も。ご希望があれば、もちろん食べやすく切ってお出しします」(佐藤さん)。
使っているバタールは、クラストは歯切れよく、ほどよい引きのあるクラムで、たっぷりの具材とのバランスも上々です。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年8月)のものです