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フレンチの技法が光る 新感覚フレンチラーメン

世界三大料理のひとつとして知られるフレンチと、日本の国民食ともいえるラーメン。この2大料理を掛け合わせた「フレンチラーメン」の新たな味わいが、若者や女性客を中心に支持を集めています。今回は都内で「フレンチラーメン」や「フレンチの技法」を取り入れたラーメンを提供する4つの人気店を取材し、各店のこだわりや工夫をレポートします。

カフェ エンラージ

JR中央線西八王子駅近くにある「カフェ エンラージ」は、フレンチとベルギー料理の味わいが楽しめるカフェ&レストランです。地元・八王子産の野菜を生かした創作フレンチやジビエ料理の味には定評があり、知る人ぞ知るフレンチの名店です。

カフェ エンラージ

住所
東京都八王子市千人町4-3-2
電話
0120-512-357(042-673-6707)
営業時間
11:30~15:00(L.O.14:00)/17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日
日曜、月曜
西八王子駅から徒歩5分の場所にある「カフェ エンラージ」

フランス料理を新しい角度で楽しむ「フレンチラーメン」

春のフレンチラーメン(税込1,200円)
シェフの小笠原光洋さん

カフェとして居心地のいい空間を提供しながらも、フランス・ベルギー料理をベースとした日替わりメニューが充実する「カフェ エンラージ」。なかでも注目を集めているのが、毎週木曜日に実施する限定10食の「季節限定フレンチラーメン」です。シェフを務める小笠原光洋さんがヨーロッパで学んだ技術を濃縮させたこのフレンチラーメンは、常に予約で完売になるほどの盛況ぶりです。

「お客様にベルギー料理、そしてフランス料理を新しい角度で楽しんでほしい。そんな気持ちから『フレンチラーメン』を始めました。現在販売している『春のフレンチラーメン』は、じっくりと低温調理した自家製スモークハム、グリーンピースのエキューム(泡)、韓国産唐辛子を使った新玉葱のマリネ、春野菜のからし和えなど、春の食材をふんだんに使ったメニューです。スープにも新たまねぎを使っていて、優しい甘みが楽しめます」

濃厚なとろみのある新玉葱のスープは、フレンチのポタージュと同様にハンドミキサーで空気を十分に含ませています。動物性脂分は少なく、それでいて牛乳や生クリームなどでコクを出した優しい味わいのスープは、女性客でも飲み干すことが多いと小笠原さんは言います。

「グリーンピースのエキュームというのは、スープと同じくハンドミキサーで空気を含ませた泡のようなもの。途中でスープに混ぜてみるとグリーンピースの甘さがアクセントになって新たまねぎの甘さをより際立ててくれるんです」

海老のスープを練りこんだモチモチの自家製平麺

麺は150gでボリューム満点。小笠原さん自身による手づくり麺は、定石にとらわれない独特のアイデアが詰まっています。

「北海道産の小麦を使用した強力粉、薄力粉『バイオレット』をブレンドして、スープに合わせて硬さ・コシを調整しています。特に工夫しているのは水分です。『春のフレンチラーメン』では製麺する際に水ではなく、海老のスープを練りこんでいます。平麺でつるつるモチモチとした食感がありながら、海老の風味も楽しめます」

そんなフレンチラーメンとセットで注文したいのが「替え飯」。ウニを練りこんだバターとチーズがのったライスに、フレンチラーメンのスープをかけることで、クリーミーでまろやかなウニのリゾットが完成します。

海老の風味も楽しめるモチモチとした平麺
春のフレンチラーメン+替え飯ウニのリゾット(税込1,200円+330円)
テーブル席・カウンター席が充実した店内

このほか、冬であれば濃厚牡蠣スープとイカスミを練りこんだ麺が特徴の「海鮮フレンチラーメン」、秋には濃厚マッシュルームスープと唐辛子風味がアクセントの自家製麺が特徴の「フレンチつけ麺」など、これまでにもさまざまな季節限定フレンチラーメンを生み出してきた小笠原さん。お客様の意見も参考にしながらクオリティを高め、カフェエンラージの味を多くの人に伝えていきたいと語ります。

「麺を使った料理をコースとして提供するなど、フレンチラーメンをつくることで得られた知識は新しい味わいをつくる点でも役立っています。フレンチラーメンだけでなく、コース料理、日替わりメニュー、アラカルト、すべてが当店自慢のメニューです。ラーメンをきっかけにもっと多くの人に『カフェ エンラージ』の味を知ってほしいですね」

ただいま変身中

さまざまな飲食店で賑わうJR中央線中野駅そばに店を構える「ただいま変身中」は、牡蠣の旨味を最大限に活かしたフレンチラーメン専門店です。牡蠣好きなお客様を中心に、たくさんのリピーターを獲得。メディアから取材されることも多い注目店です。

ただいま変身中

住所
東京都中野区中野5-53-3 松本ビル 101
電話
03-5942-6636
営業時間
[月曜~土曜]11:00~15:30 (L.O.15:10)/
17:00~21:15 (L.O.21:00)
[日曜]11:00~15:30 (L.O.15:10)
定休日
なし
中野駅5分の場所にあるフレンチラーメン店「ただいま変身中」

こだわりの食材で生み出す「牡蠣×フレンチ×ラーメン」

看板メニューの「牡蠣ラーメン」(税込890円)

「800~900円というリーズナブルな価格帯でフレンチとラーメンの魅力を日本中、世界中に発信していきたい」

こうした思いをもとに、関東・関西でフレンチラーメン専門店を展開している株式会社petit。上質な鯛の出汁を炊き上げたスープが特徴の「鯛塩そば 縁」、旨味と香りを最大限に引き出した煮干しとフレンチのコンソメを掛け合わせたラーメンを提供する「煮干し担担麺 ふたつぼし」など、すでに10種類のブランドをつくりあげています。

そのなかで「ただいま変身中」は、牡蠣×フレンチ×ラーメンを掛け合わせたブランドで、看板メニューは「牡蠣ラーメン」です。出汁には愛媛県宇和島産の鯛と昆布を、タレには広島県の漁師から直接仕入れた最高級の牡蠣、とそれぞれにこだわりの食材を贅沢に使った逸品です。

総料理長の坂祥太さん

「一杯あたりの出汁をつくるのに鯛1尾分、“かえし”には5個分の牡蠣を使っています。香味野菜に鯛の骨やアラを加えて炒めるフュメ・ド・ポワソンという製法で鯛の旨味を最大限に引き出した出汁、牡蠣の濃縮した旨味を詰め込んだタレ、ここに豆乳を加えて乳化させることで、味わい深く麺との絡みがいいエスプーマ状のスープが完成します」

語ってくれたのは「ただいま変身中」で総料理長を務める坂祥太さん。ミシュラン二つ星レストランで副料理長を務めあげた、フレンチ歴14年のキャリアの持ち主です。

「麺にはタピオカ粉を練りこみ、弾力の強い食感で伸びにくいことが特徴です。複数の小麦粉をブレンドしているので、食べたときに小麦の風味が口いっぱいに広がるような配分を意識しています」

フレンチラーメンの魅力を世界に発信するために

「牡蠣ラーメン」は、しっとりとした食感のローストポーク、やわらかく仕上がった鶏ハム、低温で煮た牡蠣と、トッピングも贅沢なラインアップです。

「大切にしているのは食材の良さをわかりやすく前面に出すこと。低温で煮るのはフレンチでは一般的な『コンフィ』という調理法で、これによって牡蠣本来のコク、やわらかさを引き出しています」

この「牡蠣ラーメン」とともに人気を集めているのが「汁なし牡蠣ラーメン」です。“かえし”には牡蠣のピューレをブレンドすることで、牡蠣の旨味を濃厚に感じる味わいに。麺は「牡蠣ラーメン」と比べてやや太めで、“かえし”をしっかりとまとうため、牡蠣の味わいがガツンと感じられます。

タピオカ粉が練りこまれた弾力のある麺
牡蠣の旨味をよりダイレクトに楽しめる「汁なし牡蠣ラーメン」(税込890円)
カウンター席には1席ずつスマホ充電マットを設置

今後は「牡蠣ラーメン」を進化させつつ、家系ラーメンのように「フレンチラーメン」というジャンルを確立させたいと語る坂さん。さらにその先には、現在展開する10種類のフレンチラーメンのブランドをしっかり確立して世界進出していきたい、という大きな目標があります。

「ここ数年、株式会社petitが経営する店以外でもフレンチラーメンを売りにするお店が増えてきていて、少しずつ認知度が高まっている手応えを感じています。フレンチラーメンの魅力を世界に発信するためのスタートラインにようやく立てたところでしょうか。『ただいま変身中』は店名の通り、今も変身中。多くのお客様を感動させられるように、これからももっと進化を重ねていきます」

メンドコロキナリ

JR総武線東中野駅の目の前に店を構える「メンドコロキナリ」は、連日行列ができる人気ラーメン店です。脂分が少なく、さっぱりとした味わいは、幅広い年齢層から支持を集めています。

メンドコロキナリ

住所
東京都中野区東中野1-51-4 大総ビル 1F
電話
03-6279-1273
営業時間
11:30~14:30(L.O.)/18:00~21:00(L.O.20:30)
定休日
水曜日
東中野駅から徒歩1分の場所にある「メンドコロキナリ」

「ワインと料理のマリアージュ」の経験を活かしたスープづくり

看板メニューの濃口醤油ラーメン(税込900円)
店長の越川一彦さん

「メンドコロキナリ」を手がける越川一彦さんは、フレンチのサービスマンとして15年のキャリアを重ねた人物です。その後、埼玉県飯能市で人気の「中華そば きなり」の店長・土橋健司さんに師事しながら料理人としても腕を磨き、「メンドコロキナリ」をオープンしました。

レギュラーメニューは「濃口醤油ラーメン」「塩ラーメン」「山椒 白醤油」。一見、普通のラーメンのようですが、そこに込められたのはフレンチの技法。目指したのは、師匠である土橋さんとともにつくりあげた、素材本来の旨味がダイレクトに伝わる優しい味わいでした。

「カエシをつくるうえで大切なのはタレの香りづけです。『濃口醤油ラーメン』のタレにはティオ・ペペというシェリー酒を、『塩ラーメン』のタレにはペルノというリキュールを加えて火を入れています。シェリー酒はフレンチでコンソメスープを香りづけするために入れる酒で、これを入れることで醤油ダレの香りにほんの少し膨らみが出るんです。ペルノはもともと香りの強い酒ですが、塩との相性がよく、塩本来の香りを際立たせてくれます」

スープは煮干しを使ったスッキリ&シンプルな味わい。10層のスープに20種類ほどの醤油と塩などでつくったタレを合わせることで、優しく奥行きのある味わいが生まれます。

「苦労しているのは、10層のスープを毎日同じ味わいになるように調整すること。その日の気温や湿度によって出来栄えが変わるんです。一つひとつの層のタレを味見して、それぞれを組み合わせたときにどんな味になるかをイメージしながら手を加えています。フレンチでサービスマンをやっていたころ、ワインと料理のマリアージュは常々意識していたので、その経験がスープづくりに活きていると思います」

「年を重ねても食べてほしいラーメン」を目指して

「濃口醤油ラーメン」のトッピングは肩ロース、カモチャーシュー、穂先メンマ、三つ葉、海苔、ホウレンソウ。「塩ラーメン」は春には菜の花、たけのこ、桜の塩漬け、チャーシューですが、夏は青梗菜やカイワレ、冬にはゆず塩など、季節に合わせてトッピングを変えていると越川さんは言います。

そんな豪華なトッピングに負けない存在感を放つ麺は、三河屋製麺から仕入れている細麺です。弾力がありながらも歯切れの良さが特徴ですが、その麺の食感をよりダイレクトに楽しめると人気を博すのが追加注文できる「和え玉」です。丼底の特製醤油あぶらダレと絡ませる、少し食べてからラーメンのスープに入れてみる、卓上にあるスモークの香り豊かな燻製酢をかけてみる……など、楽しみ方・味わい方は自由自在です。

このほかにも、一杯のラーメンをとことん楽しむための細かな工夫がありました。

「ラーメンの味変用として、卓上にはフォションのブラックペッパーを用意しています。ラーメン店のブラックペッパーはGABANが一般的ですが、その違いは香りです。フォションのブラックペッパーは胡椒の香りとともにフルーティな香りがするんです。味変をしながらこの華やかな香りも一緒に楽しんでほしいですね」

弾力がありながらも歯切れのいい細麺
季節によってトッピングが変わる「塩ラーメン」(税込900円)
落ち着いた雰囲気で居心地のいい店内

優しい味わいとともに豊かな香り、季節感など、様々な角度からお客様においしさを提供する「メンドコロキナリ」。今後も師匠から受け継いだ味を守っていきたいと越川さんは語ります。

「幅広い年齢層から『おいしい』と言ってもらえることが私の励みです。特にご高齢のお客様から『おいしい』と言ってもらえるのはとてもうれしいですね。当店のラーメンは『年を重ねても食べてほしいラーメン』。今後もいつでも変わらぬおいしさを提供していきます」

海老丸ラーメン

ラーメン激戦区である東京・神保町駅のそばに店を構える「海老丸ラーメン」は人気フレンチ店でも腕を振るうオーナーが手がけるラーメン店です。オマール海老の旨味をダイレクトに感じられる唯一無二のラーメンは、多くのリピーターを獲得しています。

海老丸ラーメン

住所
東京都千代田区西神田2-1-13 十勝ビル1F
電話
03-6272-6416
営業時間
[平日]11:30~15:00/18:00-22:30 (L.O.22:00)
[土・日・祝日]11:30~20:00 (L.O.19:30)
定休日
無休(年末を除く)
神保町駅から徒歩4分の場所にある「海老丸ラーメン」

フレンチの感覚だけでは売れるラーメンは生み出せない

元祖海老丸らーめん(税込1,298円)
オーナーシェフの長坂将志さん

「海老丸ラーメン」は、フレンチの定番食材である「オマール海老」専門のラーメン店です。フレンチの技術を駆使してつくりあげるオマール海老100%のスープは、まさに「飲むオマール海老」。ハンドミキサーを使って徹底的に裏ごしを繰り返すため、濃厚でなめらかな味わいが堪能できます。

オーナーシェフを務める長坂将志さんは、東京・京橋の高級フランス料理レストラン「シェ・イノ」でフレンチの基礎を学び、現在は西麻布の人気フレンチ店「エゴジーヌ」のオーナーシェフとしても活躍する人物です。

「『エゴジーヌ』のセカンドビジネスとしてラーメン店に挑戦してみようと思ったのがきっかけです。当初はフレンチの経験を詰め込んだオマールビスクをラーメンのスープにして勝負していたのですが、なかなか売り上げは伸びませんでした。これまで培ってきたフレンチの感覚だけでは売れるラーメンは生み出せない。そう考えて、そこからラーメンを勉強する日々が始まりました」

本を読み漁り、数々のラーメン店を食べ歩いた長坂さん。それらを繰り返してわかったのは、スープでは旨味を、かえしでは味のベースをつくりあげるスープとかえしの役割の重要性でした。

「オマールビスクをラーメンのスープに近づけるため、どの食材を減らすかを考えました。野菜を抜き、ハーブの風味を抑え、塩も減らして……。何度も試作を重ねるうちに、オマール海老の旨味が感じられるスープが完成しました。そのうえで大切なのは、スープと“かえし”のバランス。旨味とおいしさを両立できるように分量を調整して組み合わせてみると、今までとは違う味わいをつくりあげた手ごたえを感じました」

お客様にも食材にも真摯に向き合うことで間口を広げたい

日々、「ラーメン」と「フレンチ」の“文化の違い”に直面することは多いという長坂さん。そのなかでもフレンチの技術をラーメンづくりに活かし、これまでになかった味わいを次々に生み出しています。

「料理の味をお客様の手で変える、いわゆる“味変”という発想はフレンチの世界ではありません。それでも、当店のラーメンで少し違った味を楽しんでもらうために考えたのが、サワークリームを塗ったバゲットを添えること。クリームを溶かすことでスープに爽やかな酸味が生まれてマイルドな味わいになります。卓上の調味料にはエビの旨味・辛味・甘味を加えた自家製ラー油、オマール海老と相性のいいカレースパイスも用意しています」

こうしたこだわりは麺や具材にも。プリプリとした食感が楽しめる中太麺は、小麦の味とスープの味わいが共存するバランスを見つけ出すため、何百種類もの麵の試食を重ねたと言います。また、トッピングで目を引くのは、低温調理を施した桜色のロース豚。スモークがかかっているため風味もよく、しっとりとした食感が楽しめます。

この4月には東京ドームに併設された総合アミューズメント施設・ラクーアで「French Noodle Factory」という姉妹店も新規オープン。フレンチラーメン専門店を2店舗経営することで、幅広い年齢層にその味わいを知ってほしいと長坂さんは語ります。

「海老丸ラーメンとしての目標は、常に挑戦を続けて、エキサイティングでワクワクする空間をつくり続けること。姉妹店がオープンしても、お客様にも食材にも真摯に向き合うことに変わりはありません。地道に少しずつ間口を広げていって、若年層にもフレンチラーメンを楽しんでほしいですね」

スープの味をしっかり受け止める中太麺
オーナーの出身地・飛騨の木材でつくられたテーブル・カウンター・椅子が並ぶ店内

今回取材した4つのラーメン店に共通していたのは、フレンチの技術を駆使してこれまでにない味わいをお客様に楽しんでほしいという熱い思い。フレンチを食べ慣れているお客様にも、そうでないお客様にも、ラーメンが大好きなお客様にも、誰にとっても新感覚の味わいが丼に凝縮されているフレンチラーメン。今後ますます専門店の数が増えていくかもしれません。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年03月)のものです