小田急線東北沢駅から徒歩8分、東大駒場キャンパスの隣に店を構える「千里眼」。「お客様にお腹いっぱいになって帰ってもらう」というコンセプトのもと、濃厚でボリュームたっぷりのラーメンを提供。開店1時間前から行列ができ始めるほどの人気店です。
食べ応えのある極太ちぢれ麺と、ニンニクが効いた濃厚豚骨スープが特徴の「千里眼」。普段は食べ盛りの学生や男性客が主なリピーターですが、夏の風物詩「冷やし中華」の販売を始めると、年配客や女性客も多く訪れるようになるといいます。幅広い客層に愛される秘訣を、店長の安川隆司さんが教えてくれました。
「いわゆる『冷やし中華』の概念を壊そう、とつくったのが当店の『冷やし中華』。ですので、麺も具材も味わいも、一般的な『冷やし中華』とは真逆。麺は太く、濃厚なタレでガッツリと食べるスタイルです。でも、野菜もたっぷり食べられて、通常のメニューよりはさっぱりとした一面もありますので、普段よりも需要が増えるのかな、と思っています」
この「冷やし中華」を前にしてまず驚くのは、生野菜の量の多さ。細切りにした大根、ニンジン、レッドキャベツ、水菜、キュウリが麺の上に高く積もり、しょうゆベースの特製だれで味付け。そのまわりには色鮮やかなプチトマトが添えられています。
「大根やニンジンは食欲を増進する作用があるといいますので、夏場にもってこいの食材です。1日あたり、それぞれ60本くらい使っているので、仕込みがもう大変(笑)。当店は、麺の量が普通盛りでも一般的な店の倍近くあると思いますが、さっぱりした生野菜と合わせることで、最後まで飽きることなく召しあがっていただけるんじゃないでしょうか」
通常メニューでは大きな豚チャーシューも人気ですが、「冷やし中華」では鶏チャーシューを使用。野菜や麺との相性がよく、それでいて満足感のある逸品です。
千里眼では、通常メニューには自家製麺を使用。しかし、「冷やし中華」では浅草開化楼の麺を使用しているのが特徴です。
「冷たい麺では、通常メニュー以上に喉ごしが大事になります。普段の自家製麺にも自信を持っていますが、噛み応え、食べ応えを重視している分、喉ごしとの両立はなかなか難しい。野菜の仕込みもありますので、その部分はプロの技にお任せしようということになりました。ツルッとした食感も含めて好評です」
こうした野菜や麺の工夫に加えて、無料のトッピングを注文することで「冷やし中華」の味わいはさらに広がりをみせます。トッピングのラインアップは、野菜マシ、ニンニク、ショウガ、アブラ、辛揚げ(揚玉に数種の唐辛子をまぶしたもの)と、冷やし中華専用のカラメ(タレ多め)、ガリマヨ(ガーリックマヨネーズ)です。
「ショウガは、今年の初めから新たにトッピングに加えました。厨房から見ていて、『これから人と会うからニンニクはちょっと・・・・・・でもなにかパンチが欲しい』という思いを抱えているお客様が多いように感じたんです。そこで、ちょうど冬場だし体の温まるショウガがいいのでは、と始めました。『冷やし中華』に入れるとさっぱりとした味わいがより強くなるので、夏の間も人気ですね」
厨房に立ちながら、お客様が何を求めているかを感じ取り、メニューづくりに反映させている安川さん。「冷やし中華」開発のきっかけも、お客様に喜んで欲しいという想いからでした。
「開店から変わらず大切にしているコンセプトは、お客様を第一に考えること。お腹いっぱいになって満足していただくためにはどうすればいいのか。それだけを丁寧に追求していきたいですね」
高級素材“焼きあご”をふんだんに使った塩ラーメンで、メディアでも取り上げられることが多い人気店「焼きあご塩らー麺 たかはし」。2015年に新宿に出店して瞬く間に支持を集めると、その勢いのまま、2016年に上野店もオープン。ファン層をさらに拡げています。
長崎県平戸産の上質な“焼きあご”の旨味を抽出した看板メニュー「焼きあご塩らー麺」。創業者の出身地、新潟県燕三条エリアのご当地ラーメンである「背脂醤油らー麺」。そして、新潟県産コシヒカリにこだわり、店で毎日精米して提供する「ご飯メニュー」の3本柱でファンが多い「焼きあご塩らー麺 たかはし」。この店で、夏季限定メニューとして提供するのが「鯵と鰹の和風冷やしそば」です。メニュー開発にあたった高橋直樹さんがそのこだわりについて教えてくれました。
「この“鯵と鰹の和風冷やしそば”は昨年もほぼ同じものを提供し、ご好評をいただきました。昨年は、別な冷やしそばも提供していたのですが、今回、“鯵と鰹”にさらに改良を重ね、完成度が高まったこともあり、この夏は“鯵と鰹の和風冷やしそば”一本で行こう、と決めた自信作です。今後、『たかはしの冷しといえばこれ』と認知していただける夏の定番メニューにしたいと思っています」
鯵は青森県産。鰹は、鰹の産地として有名な鹿児島県枕崎産のもの。素揚げした茄子とオクラの夏野菜コンビが彩りと味わいのアクセントを生み出します。
「この商品では、茄子の仕込みが大変なんです。昨年は手が回りきらず、閉店後に家でも作業をしたことがありました。でも、手間がかかる分、お客様からは大変好評でしたし、今年は上野店がオープンし、オペレーションの質も回転量も向上したので、継続して提供する運びとなりました」
「焼きあご塩らー麺 たかはし」といえば、栃木県佐野市から毎日取り寄せる青竹打ち麺も特徴のひとつ。しかし、「鯵と鰹の和風冷やしそば」には、菅野製麺所がつくるツルツルした中加水麺を使用しています。
「去年と変えた点というと、メカブをあえて外したこと。メカブとなめことオクラでかなりの粘り気が出ていましたが、今年はメカブがなくなった分、粘り気がおさまり、その分、スープや麺の味わいをより楽しんでいただけるのでは、と考えています」
メニュー構成は、新宿本店も今回取材した上野店もほぼ同じ。上野店の方が外国人客は多いなど客層は若干異なりますが、どの場所であっても店のコンセプトを徹底することが成功の秘訣、と語ります。
「新宿店も上野店も、『老若男女、そして外国の方でも美味しく食べてもらえること』が最大のコンセプトです。客層は30代から60代。幅が広すぎるかもしれませんが、若い方でも満足して、年配の方でも美味しかったと言ってもらえる味を目指しています。もちろん、今夏の“冷やしそば”でも、そのコンセプトは一緒です」
そんな味のこだわりに加えて、モダンな和の店構えを徹底していることも功を奏し、「日本らしい店」として外国人観光客からの人気も日増しに大きくなっているといいます。
「今後は銀座への出店計画もありますし、いずれは海外にも進出したいと考えています。その意味でも、外国人のお客様も含め、今ある店で、さまざまな層の方に喜んでいただける味、店づくりを徹底していきたいですね」
国産と自家製食材にこだわったメニュー開発で人気の「麺や庄の」。2日かけてじっくり煮込んだ豚骨スープに魚介ダシを加えた濃厚豚骨魚介スープの“らーめん”と“つけめん”の定番メニューに加えて、月1ペースで切り替わるさまざまな創作麺が人気を博しています。
2005年に開店して以来、絶えず人気を博す「麺や庄の」。代表の庄野智治さんは「感動と驚き」をコンセプトに、ここまで500以上の創作麺を提供し続けてきました。今年の夏の新作は「初鰹の冷たいラーメン」(6月~7月)と「トウモロコシの冷たいラーメン」(8月)です。
「毎年、今年の夏は何を提供しようかなと頭を悩ませますが、『旬なものをお客様に味わっていただきたい』というのが一番。今回、“初鰹”を選んだのはちょうど旬の食材であるということと、冷たいラーメンをつくろうと考えたときに、鰹出汁の冷たいスープに初鰹をのせるとハマるな、と直感で思い浮かびました。スープの出汁を考えるうえで意識したのは、旨味成分のイノシン酸とグルタミン酸のかけ算です。イノシン酸が豊富な鰹と、グルタミン酸が豊富な昆布をあわせることで旨味をより強めています」
鰹の美味しさをしっかり味わって欲しいから、と無駄なものを削ぎ落とした結果、具材はチャーシューの煮込みダレでヅケにした瀬戸内産の鰹と、酢橘、セミドライトマトの3つのみ。スープに浮かんだ“だし氷”が冷たさを持続させます。
酢橘によって夏らしい爽やかさが生まれるとともに、低温で長時間ローストしてつくったセミドライトマトの旨味が鰹出汁に溶けだすことで、食べ進めるほどに味わいが変化するのも特徴です。
お店で使う食材はとことん“自家製”と“国産”にこだわる「麺や庄の」。麺は、護国寺にある系列店「MENSHO」の店内製麺室で専門の麺職人がつくり、毎朝直送されたものを使用しています。
「今回の“鰹”専用の自家製手もみ麺で使用したのは、国産小麦の“ゆめちから”。香りが豊かな強力粉に近い品種です。水で締めたときにしっかりとした弾力が出る小麦は何かと考えたときに、“ゆめちから”しかないと思いました」
この「初鰹の冷たいラーメン」以外にも、夏ならではの創作麺として人気なのが、系列店「麺や庄のgotsubo」で販売する「冷たいトウモロコシのつけ麺」です。毎年夏の定番メニューでありつつ、今年はよりトウモロコシ比率を上げて素材感を増す工夫を加えたことで、昨年食べた方にも新たな美味しさを提供しています。
「“鰹”がさっぱりした味わいな分、“トウモロコシ”では、ビシソワーズのような濃厚でクリーミーな味わいを目指しています。麺も、その濃厚なスープに合うように、モッチリとした麺に仕上げています。“鰹”では麺をしっかり味わっていただき、“トウモロコシ”ではスープを食べるような感覚で召しあがっていただく、という変化も心がけています」
食材にこだわり、手間も暇もかかるため、「採算度外視の場合も多いです」と語る庄野さん。それでも、創作麺はこれからもつくり続けていきたいといいます。
「食材については、産地を訪問して生産者の話を聞き、魅力的に思ったものを選んでいます。これからもお客様の笑顔と生産者の熱意を大切にして、新しい創作麺をどんどん提供していきたいと思います」
JR神田駅から徒歩3分の場所にあるランチタイム限定のラーメン店「塩生姜らー麺専門店 MANNISH」。鶏ベースの清湯系塩スープに国産生姜の風味が広がる看板商品「塩生姜らー麺」は、年間を通して多くのお客様に愛されるメニューです。
2016年3月に開業してから2度目の夏を迎えた「塩生姜らー麺専門店 MANNISH」。店主の柴田和さんは、幡ヶ谷にある生姜スープが名物の「我武者羅」、池袋にある塩ラーメン専門店「桑ばら」などのラーメン店で修業を重ねたあと、独立。開業するにあたって「ここでしか味わえないものを」と開発したのが“塩生姜らー麺”です。
「神田はサラリーマンやOLの方が多い場所です。疲れている方や二日酔いのお客様でも食べられるような体に優しいラーメンをコンセプトに、塩ラーメンに生姜を合わせたメニュー開発に至りました」
味の決め手であり、店の売りはもちろん“生姜”。選びに選び抜いた末、辿りついたのが、熊本県宇城市小川町の高低差ある畑で育った“きなしょうが”でした。
「生姜の出荷量1位は高知県で、2位が熊本県です。その熊本県でこれから売り出し中の生姜がある、と聞いて知ったのがこの“きなしょうが”です。味は苦みが少なく、香りも格段に違います。熊本は平地が少ないため、生姜も段々畑で栽培されているのですが、年配の農家の皆さんが登ったり下りたりを繰り返して苦労しながら育てている、といったことにも感銘を受けて使うことを決めました」
熊本県でも7世帯でしか栽培されていない“きなしょうが”。都内の飲食店でこの食材を使用しているのは、「塩生姜らー麺専門店 MANNISH」だけです。
看板通り、味は「塩生姜」のみの「塩生姜らー麺専門店 MANNISH」。リピーターが多いからこそ、お客様の心をつかみ続けるための工夫は怠りません。そのひとつが夏季限定で提供する「冷やし塩生姜らー麺」です。
「生姜って汗をかくイメージがあるからか、去年の夏に売り上げが大きく落ちた時期がありました。そこで始めたのが『冷やし塩生姜らー麺』です。通常のスープをそのまま冷しただけでは臭みが出てしまうため、冷やし専用のスープを別鍋で仕込んでいます。その分、手間はかかりますが、それでお客様が喜んでくださるならば、つくりがいがありますね」
スープは冷やし専用で仕込む一方、麺は通常メニューと同じ、三河屋製麺の麺を使用。それぞれのスープによって、喉ごしや食感が大きく変わるのが特徴です。そしてもうひとつ、通常メニューでも冷やしでも、変えずに心がけていることが「バランス」だといいます。
「塩が強ければただの塩ラーメンになってしまうし、生姜が強すぎてもラーメンとしてはやり過ぎ。重要なのは、個々の素材を美味しく味わってもらうためにどうすればいいかを考え、そのバランスを常に心がけること。たとえば、今年の『冷やし』には去年と違って梅干しをのせていますので、それに合わせてスープの塩分量も少しだけ下げています」
「これからもお客様を飽きさせないメニューづくりをしていきたい」と語る柴田さん。冷やしメニューに関しても、どこかのタイミングで「冷やし油そば」を販売予定だといいます。
「常連さんには、『いつ始めていつ終わるか決めてないから、毎日来てくださいよ』と話してます(笑)。暑くても寒くても、身体にいい生姜をたっぷり食べて、午後のお仕事を頑張ってほしいですね」
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年8月)のものです