動物系素材を一切使わず、魚介類だけを使用したとろみのあるオリジナルスープが特徴の「志奈そば 田なか」。女性客からも支持を集める人気店です。そのセカンドブランドとして、2015年12月、東京・秋葉原にオープンしたのが「志奈そば 田なか second」です。
「志奈そば 田なか」の店主・田中友規さんは、高校卒業後、イタリアンレストランで経験を積み、その後、ラーメンの世界に転身した人物です。
「私は生まれも育ちも東京なんですが、趣味のサーフィンを通して、すっかり千葉の海に魅了されてしまいました。そこで、恩返しの意味も込めて、九十九里の海でとれた素材を使ったラーメンをつくりたい、と始めたのが『志奈そば 田なか』なんです」
昆布の周りを鯵や鰯が泳いでいるイメージでつくったラーメン、という「志奈そば 田なか」の味。大量に使った昆布に加えて、根昆布を使うことでとろみが効いたスープが特徴です。このほか、千葉県のご当地ラーメン・勝浦タンタン麺など、千葉愛に溢れた味が曜日限定でメニューに加わります。
「おかげ様でご好評いただいているのですが、何度も来てくださるお客様から、『とろみがないスープも食べてみたい』『田なかのコンセプトで動物系を使った味を食べてみたい』といったご要望をいただくことがありました。そこで、醤油から塩ベースに味を変え、素材も変えて『second』を始めることにしたんです」
メニュー構成や味は変われど、『second』でも変わらないのは、千葉愛と千葉の海に恩返ししたい、というコンセプト。房総の海でとれた伊勢エビをはじめ、千葉県の海産物が味の決め手となっているのは共通です。
「志奈そば 田なかsecond」の看板メニューは3つ。「アンチョビ塩まぜそば」「アジ煮干し塩中華そば」、そして夜に30食限定で提供する「至高の塩かけそば~房総の恵み~」です。
「アンチョビ塩まぜそば」は、店主の田中さんがイタリアンシェフだった経験を生かした逸品。塩ダレソースにはシチリア産のアンチョビを使用し、バーニャカウダソース風にまろやかに食べやすく仕上げています。麺は北海道産ゆめちからに、パスタでよく使われるイタリア産デュラムセモリナ粉を配合。やや加水を高めにすることでモッチリとした食感を生み出すとともに、ソースとのからみを重視しています。
「アジ煮干し塩中華そば」は、大山鶏を軸に、九十九里産のアジ煮干、片口鰯、潤目鰯、内房産黄金アジ、鴨川産ムロアジなどを贅沢に使い、じっくりゆっくり、旨味を丁寧に抽出。麺の素材は「まぜそば」と一緒ですが、配合を変え、加水率を変えることで、また違った食感が楽しめます。
そしてもう一品が「至高の塩かけそば」。房総産の伊勢海老、アワビ、サザエで、旨味とコクをしっかりと出した贅沢で最高級なスープに具材は一切浮かべず、麺だけで楽しむ一杯です。
「ラーメンは、ひとつの丼のなかで完結するフルコース、と感じています。スープがあって、前菜があって、メインがあって、麺がある。『至高の塩かけそば』は伊勢海老やアワビのビジュアルこそ前に出てきませんが、“フルコースの究極系”と思って提供しています。正直なところ、採算度外視です。でも、こういったメニューを味わっていただくことで、千葉の食材がいかに優れているかが伝わります。これからも千葉愛を大切にして、一杯のフルコースをつくっていきたいと思います」
ラーメン激戦区・高田馬場に本店を構え、数々のラーメンランキングで1位を獲得する人気店「麺屋宗」。そのセカンドブランドとして2016年8月にオープンしたのが「百年本舗 秋葉原総本店」です。店名には「百年お客様に愛されつづけるお店でありたい」という願いが込められています。
塩ラーメンで人気の「麺屋宗」。そのセカンドブランドである「百年本舗」は、醤油ラーメン中心のメニューづくりを展開しています。「麺屋宗」グループ代表の柳宗紀さんがその狙いを教えてくれました。
「ラーメンの中でも、やはり『塩』は敷居の高いメニューです。おかげさまで『麺屋宗』というブランドで固定ファンを獲得することはできましたが、もっと広く支持を集めるにはどうすればいいかを考えた結果、辿り着いたのが、日本人にもっとも馴染みのある『醤油』で勝負すること。そこで、『麺屋宗』とはブランドを分け、どなたでも入りやすい店として『百年本舗』を立ち上げました」
百年本舗の看板メニューは「肉汁中華ソバ」。4種類の小麦をブレンドした低加水のストレート麺を使用し、肉と醤油の旨味・甘味を活かしたスープが特徴です。
「肉汁中華ソバ」以外のメニューである「百年まぜそば」ではもちもちした平打ち麺、「濃厚肉汁つけ麺」では加水率を少し上げてうどん用粉をブレンドした麺を使用するなど、メニューに応じて麺を使い分けています。
また、麺を使った遊び心のあるデザートが「麺スイーツ」。国産小麦と一緒にそばの実などの雑穀、チアシードやアマランサスなどのスーパーフード、黒ゴマを練りこんだ麺は生クリームやアイスクリームとも相性バツグン。モチモチした食感にチアシードや雑穀のカリカリした食感が混ざりあった新感覚スイーツです。
「百年本舗」が店を構えているのは東京・秋葉原。アジア系を中心に外国人観光客が多い場所柄、サイドメニューにはシンガポールやタイで人気の「海南チキンライス」といったメニューも並びます。
「10年前に比べて、業界全体で外国人観光客の来店が増えています。ラーメンを食べる、という行為が観光目的化していますし、ある種、文化にもなっています。日本に来る観光客に向けてどんな対策を練るか、どんなラーメンをつくっていくかも考える時代になってきた、ということではないでしょうか。そうした実験的なことをする上でも、ブランドを分けているとできることが広がるな、と最近特に感じています」
店舗経営だけでなく、業界が今後どうなっていくか、という視点を持つことも大事、と柳さんは語ります。
「麺屋宗を開業して、今年でちょうど10年になります。10年も続けていると、やはりラーメン業界は移り変わりが激しいと感じますし、時代についていくのが大変です。これからの10年も若い人たちの感性についていけるのか、と不安になることもあります。だからこそ、『今』の情報を常にインプットし続けて、仕入れた情報をうまくアウトプットしていくことが、業界全体として求められているのではないでしょうか」
今後は秋葉原以外の場所でも店を展開していきたいという「百年本舗」。これまでの10年の経験を生かし、見据えるのはこれからの100年です。
東京・中目黒で2015年11月にオープンした「新潟 三宝亭 東京ラボ」。新潟県を中心にチェーン展開している三宝グループの東京進出1号店です。「ラボ」と名の付く通り、2~3か月に一度のペースで研究麺という期間限定メニューが販売されているのも特徴です。
「新潟 三宝亭 東京ラボ」の看板メニューは「酸辣湯麺」と「全とろ麻婆麺」。この2つの麺は、もともと新潟の「中華麺食房 三宝亭」でも根強い人気があり、固定ファンの支持を集めてきた自慢のメニューです。「東京ラボ」スーパーバイザーの中島雅人さんが、東京進出にあたってのメニューづくりの狙いを教えてくれました。
「酸辣湯麺は、もともと新潟の本店で期間限定のフェアとして販売していました。一度、メニューから下げたことがあるのですが、『早く復活させてください』という声が本部に入ったほど支持をいただきました。それならば自信を持って東京でも販売できるのではないか、ということで『東京ラボ』では看板商品として提供しています」
酸味豊かな辛味スープが特徴の酸辣湯麺は、新潟の本店よりも少し辛味をアップ。お酢のまろやかな酸味と胡椒、山椒、唐辛子の辛味と香味がよく利いています。一方、「全とろ麻婆麺」は、スープ全体にとろみを効かせているのが特徴です。
「一般的な麻婆麺というと、スープの中に麺が入り、その上に麻婆豆腐がのる、という形が多いと思います。対して当店の全とろ麻婆麺は、麻婆豆腐の中に麺が入っているイメージです。この商品も新潟の本店で冬の限定メニューとして始めたところ好評をいただき、レギュラーメニューに加わりました。レギュラーになってから3、4年経ちますが、冬の時期になると販売数がグンと上がる商品です」
全とろ麻婆麺のおすすめの食べ方は、新潟産コシヒカリのライスを一緒に頼むこと。麻婆麺と麻婆丼を同時に味わえる、と好評です。
「新潟 三宝亭 東京ラボ」では、酸辣湯麺、全とろ麻婆麺に加えて、「韮葱そば」も人気を博しています。ニラとネギの旨さが醤油ベースのスープに広がる麺は、新潟の本店にはない、「東京ラボ」オリジナルのメニューです。
「韮葱そばは、『東京ラボ』をオープンしてから1か月ほど経ってから開発した商品です。当初、『東京ラボ』では酸辣湯麺と全とろ麻婆麺の2品に特化させ、辛い麺料理の店、として勝負する予定でした。でも、オープン後に『辛くないメニューを昼も欲しい』とのお客様のご要望もあり、これも以前新潟の店で販売した際に好評だったニラそばをバージョンアップさせた『韮葱そば』を加えるとともに、大吟醸の利き酒セットや一品料理などもどんどん充実させていきました」
酸辣湯麺、全とろ麻婆麺、韮葱そば。これら3つの料理を支えているのが国産小麦粉「和華」を100%使った自家製麺です。あえて新潟本店とは異なる小麦粉を使うことで差別化を図るとともに、メニューに応じて麺の太さを微妙に変えるなど、工夫に余念がありません。
そしてもうひとつ、料理の味を引き立てているのが東京ラボオリジナルの「メタル丼」の存在です。ステンレスの中空2重構造で、間に空気の断熱層が生まれることで、スープの温度が下がりにくく、手に取って持ちやすい利点も生んでいます。
新潟の本店の「三宝亭」の味やコンセプトは残しつつ、メニュー構成や材料など独自のこだわりも打ち出している「新潟 三宝亭 東京ラボ」。その根底には、「東京ラボ」をオープンする際、山宝グループ・金子博信社長から言われた言葉があるといいます。
「三宝亭は、新潟で創業して今年で50周年。ですが、『東京ラボ』はまだ出来たばかりです。だからこそ、『東京で新たに創業する意気込みで取り組んでください』と言われました。東京ならではの三宝亭の魅力を訴求しながら、早く東京2号店が出せるように、もっと研鑽を重ねていきたいと思います」
元力士という異色の経歴を持つ店主が東京・上野で営業するラーメン店「さんじ」。2012年にオープンしたこの店は、2016年3月にリニューアル。これを機に、金曜日限定で店名を変え、鴨そば専門店「日の丸 さんじ」として営業しています。
“きんちゃん”の愛称で親しまれている「さんじ」の店主・森下勤勉(のりかつ)さんは、かつて大相撲・尾車部屋に在籍し「光風」というしこ名で活躍した力士です。現役引退後、飲食店経営の道を志してオーストラリアに渡り、いつしかオーストラリアのラーメン店で勤務。その後、日本に帰国して、2012年に東京・上野で「さんじ」を開業しました。
「オープンするまでもそうですし、オープンしてからも、まったく想像していなかったことの連続ですね」
「さんじ」はもともと、あっさり鶏ガラとこってり豚骨、二種類のスープを元にしたメニューで創業し、すぐに支持を集めました。そして4年後の2016年、「更なる成長のためには、常に新しいことに挑戦する必要がある」と店をリニューアル。そしてこのタイミングにあわせ、金曜限定で店名を「日の丸さんじ」に変えて「鴨中華そば」を提供する店を始めたのです。
「性格的に、常に新しいことをやりたくなるんです。『鴨中華そば』に関しても、ベースは塩ダレと醤油ダレのハイブリッドですが、その時々で『鴨清湯』や『鴨白湯』、「鴨つけ麺」と、さまざまな味を提供するようにしています。おまけに、毎週金曜に必ず『日の丸さんじ』を開けるわけではなく、不定期です。だからよく、常連のお客さんから『あの味がまた食べたいのに、なかなか出合えないよ』と言われたりしますね(笑)」
本店ともいえる「さんじ」は、2016年のリニューアルのあと、2017年1月にさらにリニューアル。マッドグラブ(蟹)と煮干の専門店として営業しています。
「『さんじ』に行かないと食べられない、というメニューをつくりたいと考えて『蟹のラーメン』を考案しました。正直なところ、万人受けする味ではないと思いますが、むしろ、コアなファンを開拓したいと思ってやっています」
万人受けは狙っていない、と言いつつも、お店の外にはいつも行列が絶えない「さんじ」。ただ、他の行列店と異なるのは、列自体が長くてもそれほど待たずに店に入ることができる、という「回転率の良さ」にあります。
「自分が客だとして、どんなに美味しい店でも並ぶのはイヤだと思うんです。ウチの店は席数が9と少ないので、とにかく回転率を重視しています。お客さんを待たせないこと。そして、常に新しいことに挑戦すること。『日の丸さんじ』にしても、常に新しい味を追求したいと思っています。昨日より今日、今日よりも明日、より美味しいものを提供していくだけです」
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年5月)のものです