イタリアのパンやピッツァ、お菓子を専門とするお店が増えてきて、百貨店のイタリア展なども大盛況。注目度は高まっています。今回は、イタリア料理店が手がけるベーカリーと、南イタリア発祥の揚げピッツァ専門店を取材しました。
PANIFICIO VIVIANI
(パニフィーチョ ヴィヴィアーニ)
完全予約制のイタリアンレストラン「Orlando(オルランド)」が手がけるイタリアのパンと郷土菓子の店。コンセプトは、「イタリアの街角に佇むパニフィーチョ=パン屋」です。パンの種類は常時30種以上、お菓子はビスコッティやケーキが15種類ほど揃います。
PANIFICIO VIVIANI (パニフィーチョ ヴィヴィアーニ)
- 住所
- 東京都杉並区永福4-5-18
- 電話
- 03-6379-1366
- 営業時間
- 水曜~金曜10:00~19:00、土曜、日曜、祝日9:00~18:00
- 定休日
- 月曜、火曜(月曜が祝日の場合は営業し、火曜、水曜休)
料理に合わせるイタリアの食事パンが充実
お店に入ると、「カンノーリ」や「ティラミス」などのドルチェが並ぶ冷蔵ケース、その奥には、左側に食事パンや惣菜パン、菓子パンが並ぶ棚、右手には具材満載の「パニーノ」が並ぶショーケース、その上にはクリーム入り揚げドーナツの「ボンボローニ」、奥にはさまざまな焼き菓子と、店内にはイタリアならではのアイテムが多彩に揃っています。
眺めているだけでも楽しくなってくるバリエーションも豊富なラインアップです。
目を引かれるのは、黄金色に焼き上がった「アルタムーラ」、トスカーナ地方の塩なしパン「パーネ・トスカーノ」など、大きく焼いたイタリアの食事パンの数々です。イタリアンシェフ・パン職人の佐々木さんにお話を伺いました。
「 国土が南北に長いイタリアは、地方ごとに食文化が多彩に花開き、“イタリア料理は地方料理” と言われるほどです。パンもまた同様で、その土地の料理に合ったパン、土地に根付いたパンが数多くあります。私たちは、いろいろな料理との組み合わせを想定しながら、毎日でも食べたくなるようなパンをつくっています」(佐々木さん)。
例えば「アルタムーラ」は、南イタリア・プーリア州アルタムーラの郷土パン。デュラム小麦のセモリナ(粗挽き)粉を使用し、クラストはガリッとハード、中はふんわりと柔らかく、そのコントラストと香ばしさを楽しめる、同店でも人気No. 1の食事パンです。
「バゲットのようにテーブルブレッドとしていろいろな食事に合いますし、スライスした大きな表面にトマトやツナなどお好みの具材を乗せてブルスケッタとしても使いやすい、おすすめのパンです」(佐々木さん)。
「パーネ・トスカーノ」は、生地に塩を入れずにつくる食事パンです。ちょうど日本の白いごはんのような存在で、日々のおかずと合わせるのにぴったり。全粒粉もブレンドして、温めると小麦がさらに甘く香り立ちます。チーズやオリーブオイルとの相性もよく、具材をのせたり、パスタや料理のソースをパンにつけて食べたり、残って少し硬くなったときは、野菜と一緒にパンのサラダ「パンツァネッラ」としても楽しめます。
健康のために塩分を控えている方にもおすすめですし、ワンちゃんも一緒に食べられると、愛犬家の方にも好評だそう。
パンと料理の組み合わせは、イタリアのサンドイッチ「パニーノ」でも提案されています。
「『コトレッタ(ミラノ風牛カツレツ)』などイタリア料理がベースになったものや、ハムやチーズなどもできるだけイタリアのものを使い、ハーブやバルサミコ、オリーブオイルなどの調味料でよりイタリアらしい味や香りをプラスしています」(佐々木さん)。
パニーノに使われるパンは、「フォカッチャ」「チャバッタ」、食パン生地をバゲットのように直焼きした「パーネ・イングレーゼ」など多彩です。
「パンの名前と味わいをぜひ体験していただきたいので、売り場にはいろいろなパンを使ったパニーノを並べ、一部は、具材とパンをお客様のお好みで選べるようにしています」(佐々木さん)。
伝統のレシピにオリジナルのアイデアもプラスしておいしさをアップデート
「イタリアのお菓子は小麦粉、アーモンド、砂糖、卵などシンプルな素材を使い、見た目も味わいも素朴ながら、素材のおいしさが生きています。パンと同様に土地ならではの歴史や楽しまれ方があり、それらをご紹介しながらお客様のシーンに合わせてお菓子を提案しています。例えば、かわいらしい花形モチーフの「カネストレッリ」は、ピエモンテ地方などで婚礼やお祝い菓子として親しまれてきたお菓子。お誕生日や内祝いのギフトにもぴったりです」(佐々木さん)。
「パンもお菓子もイタリア各地の伝統的なレシピを踏襲しつつも、現地と日本では気候や風土、手に入る素材も異なります。私たちは、国内で手に入る素材、イタリアから入ってくる素材を吟味してアイテムごとに使い分け、私たちの新しいアイディアもプラスして、 “今”“美味しい”と思えるものにアップデートしたパンやお菓子づくりをしています」(佐々木さん)。
「ドルチェ アッル オリオ」は、シエナのオリーブ農園「BARDI」のマンマ秘伝のレシピを忠実に再現したケーキ。バターの代わりに極上の有機オリーブオイル「BARDI」をたっぷり使い、軽やかな口当たりとレモンの香り、オリーブオイルの青リンゴのような香りとコクが際立ちます。
「チャンベリーナ ディ アマレーナ」は、イタリアの伝統と新しい感覚が融合した同店オリジナルの焼菓子です。イタリアのお菓子によく使われる「栗粉」とカカオパウダーをブレンドした生地に、アマレーナというイタリア産サワーチェリーのシロップ煮を加えています。栗粉のほんのりした甘み、カカオの風味、アマレーナの甘酸っぱさのコントラストを楽しめます。
「お菓子もパンも、その名前は日本ではまだまだなじみのないものが多いですが、イタリアンレストランで培ってきた食への想いをベースに、料理をイメージしながらご紹介することでイタリアのパンをより親しみやすく感じていただけると思っています。『今日はパスタをつくるからVIVIANIでパンを選ぼう』『VIVIANIのパンでブルスケッタをつくってみよう』という具合に、皆様の食卓に当店のパンやお菓子をチョイスしていただけたら何よりです」(佐々木さん)。
PANNINI(パンニーニ)
イタリアンレストラン「BERNINI GINZA(ベルニーニ ギンザ)」が手がけるイタリア料理パンとドルチェの店。オリジナルのポルチーニパンやフォカッチャ、イタリアの定番おやつのボンボローニをはじめ、食事パン、惣菜パン、菓子パンやお菓子をバランスよく揃えています。 2階のレストランでは、ランチタイムに同店自慢のパンをメインにした「パンニーニランチ」を提供しています。
PANNINI(パンニーニ)
- 住所
- 東京都中央区銀座2-11-13 歌茶屋ビル 1F
- 電話
- 03-6228-4990
- 営業時間
- 7:30 ~19:00、※売り切れ次第閉店
- 定休日
- なし
ふんわりと軽やかなパンがイタリアンの具材を生かす
銀座マロニエ通りから脇道を入ってすぐのロケーション。店内にはビジュアルも華やかにパンが並んでいます。オーナーシェフの松本賢悟さんにお話を伺いました。
「もともとイタリアンレストランとして、フォカッチャをつくっていました。レストランのリニューアルを機に、イタリア料理をいかに普段の家庭の食卓にのせてもらえるか、と考えたときにパンの上で表現するのが伝わりやすいと、イタリアのパンとドルチェの店が生まれました」(松本さん)。
サンドイッチなどにも使われている自慢の1品は、ポルチーニを練り込んだ食パンとバンズです。単にフレーバーを加えるのではなく、本物のポルチーニを極微細に挽いたパウダーを生地にたっぷり練り込んでいます。
「天然の素材ならではのえぐみや苦みは出さずに、よい香りだけを引き出すことをめざしました。また、生地の色合いが褐色になるくらいの量を練り込むため、パン生地の発酵が抑えられがちになります。食パンの形と大きさで、ふんわりとした口当たりに仕上げるのはとても苦労しました。ご家庭でも軽くリベイクしていただくと、フワリと立ち昇る本物のポルチーニの香りを楽しめます」(松本さん)。
ポルチーニ食パン・バンズを使った惣菜パンで松本シェフのいちおしは「ポルチーニ食パンのカルボナーラ」「ポルチーニパンに挟んだスペイン産生ハムとモッツァレラ」です。
クロックムッシュのような「ポルチーニ食パンのカルボナーラ」は、ベーコンと卵黄ソースを合わせて、一口食べればまるでポルチーニ入りのカルボナーラそのものをいただいている感覚に!
売り場に並ぶ惣菜パンは、さまざまな素材を彩りも美しくあしらって、一皿の料理のような仕上がりです。パン生地にはオリーブオイルを使用して、ふんわりと軽い仕上がりを意識してつくっているそう。
「そのまま食べてももちろんおいしいですが、イタリアンの素材を贅沢に使った具材と合わせたときに、よりおいしく食べてもらえるように逆算して生地をつくっています。いろいろな香りや食材をパンという形に織り込んで、豊かにしたものを提供したいと考えて、商品づくりをしています」(松本さん)。
「フォカッチャ・ベジタブル」は、オリーブオイルをからめてオーブンでしっかり焼いた季節野菜のうまみを楽しめる1品です。オーブン焼きのナスやズッキーニとコールスローサラダやケールを合わせ、グリーンオリーブの酸味と塩味をアクセントに。野菜だけと思えない食べ応えのあるサンドです。
全粒粉パンに具材をのせて焼き上げた「マリナーラ」は、オリーブとケッパーを使い、ピッツァのマリナーラのテイストを表現しています。
「ボロネーゼ」と「ボロネーゼ&チーズ」は、見た目はカレーパンのようですが山形蔵王牛を使ったレストランメイドのボロネーゼをたっぷり詰めて揚げたもの。「ボロネーゼ&チーズ」は、フィリングにもチーズをプラス。
「どの惣菜パンも、口に入れた途端にどんな料理を食べているのかがはっきりとイメージされて、記憶に残る味わいです。ここでしか食べられない、イタリア料理を味わうパンを目指しています」(松本さん)。
人気のボンボローニをはじめ、銀座土産にもぴったりのスイーツ系
中にクリームを詰めたイタリアの生ドーナツ「ボンボローニ」は常時6種類をラインアップ。ビジュアルもかわいらしく、敢えて小さめのサイズにして2個3個と食べていただけるようにしています。
「生地もクリームもやわらかく、甘すぎず、ふんわりとした口どけのよさで、日本人の味覚に合った最高のおいしさにつくり上げています」(松本さん)。
生クリームとカスタードを合わせたクリームをたっぷりと後詰め、コロンと丸い形にトップのクリームが愛らしい「カスタード」はシンプルかつ王道的なおいしさ。表面をキャラメリゼした「クリームブリュレ」、シチリア名産のピスタチオペーストを使った「ピスタチオ」、取材時は秋のシーズナルメニューとして和栗を使った「利平栗のモンブラン」が登場していました。
また、イタリア産の栗をふんだんに使っているのが「はちみつキャラメルブランデーとイタリア産栗」。イタリアは栗の名産地が各地にあり、スイーツに欠かせない素材の1つです。ほんのり甘みを加えてサッと煮た栗をソフトフランス系の生地の中にもゴロゴロと、贅沢に使っています。
このほか、季節のフルーツなどをのせて焼き上げたブリオッシュなど、ビジュアルも華やかに彩られ、お持たせにも最適。箱を開けた途端のテンションが上がるイタリアンスイーツです。
「2025年開幕の大阪万博ではイタリア館にて当店のパンを提供することが決まりました。イタリア本国のパンはとてもシンプルで、ケーキのようにデコレーションしたボンボローニなど、どう受け止めてもらえるか未知数です。
ですが、銀座という土地柄、海外からのお客様も多く、店内に並んだパンを見て、Wow!と歓声が上がることは本当に多いです。日本ならではのイタリアのパンで、おもてなしができればと思っています」(松本さん)。
浅草パンツェロッティPanzedina(パンツェディーナ)
国内外からの観光客で賑わう浅草の「かっぱ橋本通り」に2024年2月オープンした揚げピッツァ「パンツェロッティ」の専門店。こだわり抜いたイタリアンの食材をふんだんに使った「パンツェロッティ」や薄焼きピッツァの「ピアディーナ」をテイクアウトやイートインで楽しめます。
浅草パンツェロッティPanzedina(パンツェディーナ)
- 住所
- 東京都台東区西浅草2-23-8
- 電話
- 03-6802-8773
- 営業時間
- 12:00~22:00 (L.O. 料理21:00 ドリンク21:30)
- 定休日
- 月曜(祝日の場合は営業)、火曜
イタリア南部発祥のフライドピッツァ
「パンツェロッティ」はイタリア南部プーリア地方が発祥といわれているフライドピッツァです。専門店をオープンしたきっかけやその魅力についてシェフで店長の竹本一夫さんにお話をお聞きしました。
「20年以上にわたって東京とイタリア各都市を行き来するなかで、イタリアの風土豊かな食材、シンプルながら素材を生かした料理方法に感銘を受けました。なかでも大好きでよく食べていたのが南イタリアで出会ったパンツェロッティです。イタリアにはどこの街にもパンツェロッテリアがあり、地域によって形や具材を変えて人々に愛されています。ミラノに住む友人と、パンツェロッティ専門のラボを構えて、試行錯誤を重ねてオリジナルレシピを完成。慣れ親しんだ浅草の地にこの店をオープンしました」(竹本さん)。
「パンツェロッティ」のバリエーションは6種類。一番人気は、モッツァレラチーズ、トマトソース、バジルを入れた「クラシコ」です。トマトソースは、イタリア産有機完熟トマトのホール水煮を濾してから2時間ほど煮込んでバジルを加えた自家製。
「ボロネーゼ」は、ボローニャ地方の名物パスタソースをアレンジ。鹿児島産のドングリ豚のひき肉にタマネギとニンニク、ホールトマトを鍋の中でつぶして果肉感も生かしながら2時間半くらい煮込んで仕上げています。まさにパスタのソースをピッツァ生地で包むような感じです。
「スピナッチ」は、塩ゆでしたほうれん草とリコッタチーズにほんの少しだけ岩塩もプラス。ほうれん草の苦みと塩味、リコッタのやさしくてほんのりとした甘みがベストマッチです。
「チョコレート」は、イタリアで定番のヘーゼルナッツチョコスプレッド「ヌテラ」とモッツアレラチーズにシナモンで香りをプラス。チョコレートとモッツアレラは相性がよく、ヌテラのナッツ感と甘じょっぱさを楽しめます。
オープン当初からの人気メニュー「ハム&チーズ」に蜂蜜をプラスした「ハニーハム&チーズ」も新しくラインアップに加わっています。
「もともとパンツェロッティは、家庭でピッツァをつくったときに余った生地の再利用法として生まれた、と聞いています。家にある具材を包んで揚げちゃえ! というところでしょうか。油で揚げることで手早くつくれ、おいしくて食べ応えがあり、1人でも気軽に食べられるところも魅力です」(竹本さん)。
揚げたピッツァと聞けばヘビーな印象がありますが、油っこさはなくとても軽やかな口当たりです。イタリア産の良質なチーズ、手間暇かけて仕込んだ自家製のソースなど、こだわり具材をチョイス。一番おいしいところを食べていただきたいと、オーダー後に生地を伸ばして具材を包み、揚げたてを提供しています。
本場よりも軽やかに、小麦の甘みを楽しめるパンツェロッティ
パンツェロッティ生地は前日の夜に仕込み、冷蔵庫で一晩、ほどよく発酵させます。
「生地はプーリアの本場の味に近づけつつも、日本の方にも食べやすくて、おいしいと思えるものをめざしました。本場のものは生地が厚く、引きも強くて噛み応えのあるパンに近い感じ。より軽く、生地そのものの甘みを感じていただけるようにつくり上げました」(竹本さん)。
甘みといっても、生地に使うグラニュー糖はほんのわずかで、小麦粉、酵母、塩とオリーブオイルのシンプルな構成に、現地で一般的なレシピよりも牛乳を多く加えているそう。
「発酵は、一般的なピッツァよりはやや強めにしています。とはいえ、生地が強すぎると伸ばしにくくなるので、気温や水温に応じて発酵の加減を見極め、揚げたときにパイのようなサクサクと軽い食感になるように仕上げています」(竹本さん)。
パンツェロッティの成形は、薄く伸ばした生地に具材をのせて半分に折り、合わせ目を折り返してフォークでしっかり押さえます。揚げ油はカラリとサクサクに揚がる米油を使用。
揚げている間は浮き上がってくる生地の表面に絶えず熱い油をかけることが、油を吸い込まずによりサックリと揚がるコツだそう。さらに揚げたあと、キッチンペーパーにくるんで余分な油をしっかりと取ります。外側はサクサク、中はとろける具材も相まって、生地のもちもち感を楽しめます。
薄焼きのピッツァ「ピアディーナ」は、エミリア・ロマーニャ州で昔からつくられている伝統的なローカルフード。同店では、パンツェロッティと同じ生地をより薄く伸ばし、鉄板で膨らみすぎないようにターナーで押さえながら焼きます。パリッと両面を焼き上げた生地にリコッタチーズを塗ってフレッシュ野菜、モッツァレラとともに、イタリアの生ハム“プロシュート”を都度切りたてでサンド。
「パンツェロッティもピアディーナも、日本の方にはあまりなじみのないフードですが、一度食べていただくと、国籍や老若男女問わずリピートしてくださる方が本当に多いです。ワンハンドで歩きながらでも食べられる手軽さ、食材はよいものを選び、1皿の料理を生地で包んで揚げたて・できたてをお出しする、というスタイルです。油も含めて体によいものを心がけて使っていますから、お子様にもぜひ食べてほしいです。浅草に遊びにきたときや道具街でお買い物の合間などにお立ち寄りください」(竹本さん)。
イタリアのパンやピッツァ、お菓子の中には、名前を聞いただけではどんなアイテムなのか想像がつかないものもまだまだたくさんあります。3店舗それぞれに、日本でもおなじみのイタリアン素材や料理と合わせたり、独自のアレンジを加えたりすることで、よりおいしく、親しみやすい商品に仕上げていることが印象的でした。皆様のお店でも、参考にされてみてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年10月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。