アジア圏各地で愛されている麺&餃子。食文化や風土にあわせ、それぞれ違った特徴と魅力があります。今回は、東京都内で“本場の味”を提供している「ネパール料理店」、そして中国で人気の「蘭州ラーメン専門店」を取材し、日本とはまた違った麺&餃子の楽しみ方、日本人にも人気を博す理由をお聞きしました。
ネパール居酒屋 MOMO(モモ)
東京・山手線の新大久保駅からすぐの場所に店を構える「ネパール居酒屋MOMO」は、日本では珍しいネパール料理専門店。ネパールの音楽が流れる異国情緒あふれた店内では、5つ星ホテルや様々な国で長年経歴を重ねたシェフがさまざまなネパール料理を提供。「これぞ本場の味」として、在日ネパール人、日本人、そして外国人観光客など、様々な層に愛されています。
ネパール居酒屋 MOMO(モモ)
- 住所
- 東京都新宿区百人町2-10-9 新大久保イニシャルハウス2F
- 電話
- 050-5600-2563
- 営業時間
- 【ランチ】11:00~16:00 【ディナー】16:00~23:00(L.O 22:30)
- 定休日
- なし
ネパールの家庭料理であり、レストランでも人気の「モモ」
インドとチベットの間に位置し、エベレストがあるヒマラヤ山脈で知られる国、ネパール。インド料理、中華料理、チベット料理が融合された独自の食文化が育ち、香辛料が強すぎず、野菜も多く使うため、ネパール料理は日本人の口に合いやすいと言われています。
そのネパール料理を専門に扱うのは、東京・新大久保に店を構える「ネパール居酒屋 モモ」。新大久保といえば“コリアンタウン=韓国料理”の印象がありますが、実はネパール料理店の激戦区でもあり、「MOMO」はその元祖的な店として人気を博しています。
「もともとは1階でネパール雑貨店を営んでいまして、その後に同じビルの2階で『MOMO』を始めました。1階の店では野菜も扱っていて、フレッシュな食材を使えるのが自慢です。インド料理もネパール料理も、という店は他にもありますが、ネパール料理専門店は珍しいと思います。スパイスはネパールから取り寄せているので、味は現地そのままですよ」
取材に応えてくれたのはマネージャーのギミレさん。客層は4割が外国人観光客や日本人で、6割が在日ネパール人。つまり、それだけ“本場の味”を提供している証でもあります。そんなネパール料理のなかでも、現地で特に親しまれているのが店名にも採用したネパール式餃子「モモ」。鶏肉ミンチと玉ねぎのみじん切りやネパールのスパイスを使って蒸し器で蒸した餃子です。
「一口に『ネパール料理』と言っても特徴は地域ごと、家族ごとにさまざま。それでも、ネパール各地で特に親しまれているのは、やっぱり『モモ』。家庭料理としてもお馴染みですし、レストランでも多くの店でメニューに『モモ』はあると思います」
多種多様なネパール料理を幅広い層に楽しんでほしい
「ネパール、とくに首都カトマンドゥの『モモ』は水牛の肉を使うケースが多いです。でも、日本では水牛の入手が難しいため、当店では水牛とともにポピュラーな鶏肉で提供しています。皮は手作りで、モチモチした食感を楽しんでいただきたいです」
「モモ」は蒸し餃子が定番メニューですが、ほかにもネパール式餃子にはさまざまなバリエーションがあります。たとえば、揚げ餃子のような「フライモモ」。野菜とトマトソースで炒めた「チリモモ」。蒸したモモを様々なスパイスでマリネした「サデコモモ」は、辛味と酸味が一緒に味わえる奥深い味です。
どれを食べようか……と迷った場合は、これら3つと定番の「モモ」を一皿にまとめた「モモプラター」がおすすめ。また、宗教的・趣向的に肉が食べられない人向けに、野菜だけの「野菜モモ」もあります。
ほかにも、温かいトマトスープと一緒に楽しむ「スープモモ」もあれば、夏に人気なのは冷たいスープと一緒に味わう「エベレストモモ」。様々なスパイスと野菜が入ったトマト味のネパールラーメン「トゥクパ」にモモを入れた「モモトゥクパ」は締めに最適。そして、今年新たにメニューに加わったのが「デザートモモ」です。
「この『デザートモモ』だけはネパールには存在しない、日本オリジナルのメニューで、ネパール人よりも日本人に人気です。ネパールの人からは『一体なにをやってるの?』という怪訝な反応をされます(笑)」
モモひとつをとっても、さまざまな工夫と味の幅が楽しめる「ネパール居酒屋MOMO」。麺料理も「トゥクパ」以外に、様々なスパイス、野菜とスクテイ(干しマトン肉)が入ったネパール焼きそば「チャウミン」など充実のラインナップです。今後は、そんな多種多様なネパール料理をもっと幅広い層に楽しんでほしい、とギミレさんは語ります。
「私たちが『MOMO』を始めた2010年当時、ネパール料理店は新大久保でうち1軒だけ。それから13年が経ち、今ではこの周辺だけでも40〜50軒のネパールレストランがあります。私たちの成功を見て『自分たちもやってみよう』とどんどん増えたのです。新大久保といえば『コリアンタウン』のイメージかもしれませんが、ネパール料理店も元気です。この勢いで、街とともに活気づいていきたいですね」
馬子禄 神保町店
中国・西北部の甘粛省蘭州が発祥の麺料理「蘭州ラーメン」。その人気店のひとつで中国国内でも老舗として知られる「馬子禄(マーズルー)」の日本第1号店が「馬子禄 神保町店」です。牛骨や牛肉を10種類以上のスパイスと一緒に長時間煮込んでつくるスープと、注文を受けてから手打ちする独特の麺は「本場と変わらない味」と高い評価を受け、連日賑わいを見せています。
馬子禄 神保町店
- 住所
- 東京都千代田区神田神保町1-3-18
- 電話
- 03-6811-7992
- 営業時間
- 【昼の部】11:00~15:00【夜の部】17:00~20:30
- 定休日
- 水曜日
現地そのまま、だからこそこだわった「9種類の麺」
「馬子禄 神保町店」が東京・神田にオープンしたのは2017年。中国全土で5万軒以上あると言われる蘭州牛肉ラーメンを提供する店のなかでも、100年以上の歴史を誇る“老舗の味”は日本でも支持を集め、その後に続く“蘭州ラーメンブーム”を牽引しました。
「ありがたいことに、オープン時からたくさんのメディアでも取り上げていただき、いい滑り出しをしました。ここ数年のトレンドとして『ガチ中華』(本場中国の味をアレンジせず、日本にいる中国人の口に合う本場の料理を提供する中華料理)が外食業界でのキーワードでもあったので、私たちの“現地そのままの味”というコンセプトも含めて受け入れられたのかなと思います」
答えてくれたのは、本場で修行を重ね、2017年のオープン時から店長を務める清野烈さん。だた、“現地そのままの味”を提供する一方で、オープン時と比べて変わった点もあります。その一つは、「馬子禄」の特徴のひとつである、注文を受けてから手打ちする麺の種類を3種類から9種類に増やしたことです。
「そもそも、現地では9種類程度から選ぶことができるのですが、蘭州牛肉面の知名度がない日本でいきなり9種類を並べると、どうしても選択肢が多くて迷ってしまう。なので、初めての方が来ても受け入れやすい“細麺・平麺・三角麺”の3つに絞っていました。そこから、より細いもの、より太いもの……と横軸を増やし、本場同様の9種類のラインアップとなりました」
普通のラーメン店で9種類の麺を用意するのは、コスト的にもオペレーション的にも難しいはず。それができるのは注文を受けてから麺を打つ「馬子禄」ならでは、と言えます。
“日本のセット文化”を取り入れたオリジナルの「餃子セット」
2017年オープン時からの変更点2つ目は、蘭州牛肉面一本勝負だったメニューの改訂です。トッピングとして特製ダレに漬け込んだ茶卵が選べるようになったほかに、中国北方では定番の「茴香(ういきょう)水餃子(一皿5個)」をサイドメニューに加えました。
「もう少し食べたい、というお客様だと、日本だと「大盛り」か「替え玉」か「ラーメン+餃子」の組み合わせが一般的です。ただ、注文を受けてから麺を手打ちする当店では、替え玉をすぐに用意できません。また、生地も事前に一人前ずつ用意しているので大盛りも難しい。そこで中国で一番ポピュラーな茴香入りの水餃子を導入しました」
この「茴香水餃子」は、中国の本場「馬子禄」にはない、日本オリジナルメニューです。麺と餃子(3個)のセット「蘭州牛肉面餃子セット」も好評で、スープに入れてスープ餃子のようにすれば、餃子の中の肉の味も染み出して味変のような効果も生まれます。
「中国では割と、『餃子は餃子』『ラーメンはラーメン』として食べるので、『ラーメン+餃子』『ラーメン+チャーハン』のような組み合わせはあまり見かけません。そこは“日本のセット文化”というか、日本の食文化との掛け合わせですね。面白いことに、中国人の皆さんにも『蘭州牛肉面餃子セット』は好まれています』
現在、インバウンド客が少しずつ戻ってきたこともあり、中国人客と日本人客の比率は半分ずつくらいだと言います。清野さんは、その両方の客層にそれぞれの楽しみ方をして欲しい、と語ります。
「外食産業はずっと大変な時期が続いてきましたが、ようやくコロナ以前の環境に戻りつつあります。日本の人には本場の味が楽しめる、在日・旅行の人には故郷の味が楽しめる。そんな店をこれからも目指したいです」
今回取材した2店舗は、“現地そのままの味”にこだわり、異国の味を求める日本人はもちろん、在日ネパール人、在日中国人からも支持を集めていました。その一方で、現地にはない「甘味系」のオリジナルメニューを開発したり、日本ならではの「セット文化」を取り入れたりと、「味」を変えずに「メニューを増やす」ことで、さらなる客層の開拓・客単価アップにつなげる創意工夫が見て取れました。守るべき部分と、変革を恐れない気持ち、その両輪があってこそ、店は発展し続けていくのではないでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年10月)のものです