竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-vol.6 リゾート地で理想のベーカリーを続けていく 湖畔のパン工房 レイクベイク 横溝 博男さん
前編 後編

リゾート地でパン屋をやる夢をかなえる

 洋菓子チェーンのベーカリー部門には15年いましたが、定年になったらリゾート地でのんびりパン屋をやりたいなと思っていました。「今日雨降ったから閉めよう」とか、「冬は閉めて夏だけやれば」って。それぐらいの余裕を持ちたいなって思っていました。
 あるとき「河口湖で砧というパン屋を細々とやっています」というおばさんと知り合った。そこは車もすれ違えない道しかないほどの僻地で細々とやっていて、年は60歳に近かった。もうひとりじゃできないから、閉めようかと悩んでるみたいなことを言うんですよね。

 それで僕の後輩を紹介して、手伝わせることにした。その代わり、当時使っていた市販の天然酵母は止めて、自家製の自然酵母にしたら、と。いままでやっていたものは基本的に残しながら、自家製酵母でオリジナルの味に変えた。そうやって、砧を平成11年にリニューアルオープンしました。その後も彼女には「私の代わりにやらない?」っていつも言われていた。1日2~4万ぐらい売れればなんとか生活していけるから、定年退職したらこういうところがいいかなって。家賃分は払うが、機械はタダという契約にしてもらって、基本的に投資ゼロでパン屋のオーナーをはじめることができました。

 その頃1日の売り上げは2~3万でした。ある日、テレビに出たんです。お店行ったらメールとファックスの山。小さいオーブンしかないお店で、そんなに作れるわけない。発送は3ヶ月待ちの状態でした。お店にたくさんお客さんがきて、売り上げが10万円を超えるようになって、それがずっと続きました。お客さんにも「いつきてもパンがない」って怒られ、ご近所からも車の往来の事でクレームがくるようになった。

 それで場所を移そうと思い、知り合いからこの店舗を紹介してもらいました。元はほうとう屋の店舗で、僕も食べにきたことがありました。すごく景色がよくて「いいなー、ここ」と思っていたんです。人の縁をすごく感じましたね。偶然に偶然が重なって、ここで始めることになったという感じですね。

河口湖畔、富士山が見える絶好のロケーション

 ここは河口湖にきたら絶対寄ってくれるという人、固定客が多いですね。近くのペンションでもうちのパンを使っていただいて、そこで食べたお客さんがきてくれることもあります。おかげさまで、震災のあった月を除いて、月間売り上げが前年を割ったことない。隣の富士吉田、甲府などから30分ぐらいかけてきて、1週間分まとめて買ってくれます。だから客単価が高くて、1400円ぐらいです。
 リゾート地ですから、夏と冬では売り上げに差がありますね。1日の売り上げ最高記録はゴールデンウィーク中、最低は雪が降った日ですね。年間106日の休みのうち、8月は5日か6日、1月と2月は12日ぐらいある。あらかじめ従業員にはそのように伝えています。

自家製酵母のメリットを活かす

 自分の店をはじめたんだから、自分の作りたいパン、自分の食べたいパンを作っていきたい。作り方は、砧でやっていたことを継承する意味で、「自家製酵母の店」と看板にも入れました。天然酵母は信者も多いですし、味も特長が出る。どうせならちょこっとじゃなく、メインを自家製酵母にしようと。たとえば、スコーンにも自家製酵母入れる。するとぱさつきが出ず、しっとりした感じになる。自家製のぶどう種をベースに、酒種、全粒粉種、ルヴァンリキッドと、いろんなものに変えて作っています。 ライのサワー種も起こして、ドイツパンも作っています。生地は15,6種ありますが、できるだけ大量に仕込んで冷蔵庫に保存し、3日間ぐらいで使い切るようにしています。自家製酵母だからこその効率の良さで製造しています。

ここにくると癒される

 湖畔に面していますから、富士山はよく見えます。雨が降ったあとは特にきれいです。靄がもくもくと煙みたいに持ち上がってね。冬になると雪をかぶってきれいですし、赤富士もいい。湖畔面がガラス張りになると逆さ富士が見える。写真撮ろうと、成形を終わらせて急いでいくともうだめなんです。波がうっすら立っちゃって、びしっとした逆さ富士はなかなか見られませんね。
 ここにくると、癒される。お客さんが癒しを求めにきてくれればいいなと。土日でも、「混み合いますのでお帰りください」ということは、言わないし、言えない。1時間でも2時間でも、時間を気にせずいてもらうんです。都会とは異次元のところにきて、のんびり癒されてくれればいいなと思って。

横溝博男氏プロフィール 【横溝博男(よこみぞ ひろお)氏プロフィール】

昭和26年(1951)、大宮のパン屋に生まれる。男ばかり四兄弟の末っ子、兄弟は全員パン・菓子関係に進む。大学卒業後、アパレル関係の会社員を経て、吉祥寺のモンパンでキャリアをスタート。その後、銀座木村家で約10年勤務ののち、スーパーや製菓会社の工場責任者としてラインのパン作りも経験。河口湖で小さなパン屋の経営に数年関わったのち、2009年4月1日、眺望のすばらしい湖畔の店舗でレイクベイクをオープン。

対談場所:レイクベイク 山梨県南都留郡富士河口湖町大石2585-85 tel:0555-76-7585

定休日/水曜日(祝日、イベント開催時期は営業)
営業時間/10:00~18:00 (4月~9月)/10:00~17:00 (10月~3月)  *カフェは30分前に閉店
http://www.lakebake.com/

河口湖畔に面し、目の前に優美な富士の姿を望める絶好のロケーション。カフェを併設した眺めのいい野外テラス席やカウンターで、のんびりと景色を見ながら過ごすことができる。
5坪ほどの店頭に並ぶのは、ぶどうから起こした自家製酵母を使ったパンが中心。本格的なフランスパン、食べやすくしたソフトフランス「ボンパン」、銀座木村家での経験を活かした酒種のあんぱん、テレビで紹介されこの店の看板メニューとなった「ナッツショコラ」(ナッツ生地の中にホワイトチョコレート)、しっとりとした口当たりが特長のスコーンなど。
また、コンフィチュールで有名なリリエンベルグの横溝春雄氏(実兄)によるレシピで作るジャムも多数取り揃える。
カフェでは丁寧に淹れたコーヒーやハーブティーとともに、店内で買ったパンはもちろん、オニオングラタンなどの特製スープを食べることもできる。
春は桜、初夏はラベンダー、夏はアジサイ、秋は紅葉。季節季節の花が、庭に、隣の公園に咲き乱れるここは、時間の経つのを忘れさせてくれる。

前編 後編

対談を終えて

横溝さん  竹谷さんと始めてお会いしたのは25年位前になります。JPB(ジャパンプロフェッショナルベーカーズ友の会)の講習会で助手をして頂いたのが最初ですが、それ以来、ベーカリーフォーラムにも誘って頂き、毎月のようにお会いし、いろいろと教えて頂きました。スーパーのパン工場の責任者になった時は、夜勤にも拘らず工場に来て頂き、ラインでのパンの作り方を指導して頂きました。山梨に引っ越して最近はお会いできる回数が減りましたが、こうして久しぶりにお会いし、昔話をする傍ら、竹谷さんのパンに関する知識の豊富さ、パンへの情熱をひしひしと感じ、楽しい時間を過ごさせて頂きました。もっともっと竹谷さんのパンの話が聞きたかった気がします。お互い忙しくなかなかお会いする機会がありませんが、若くはないので、無理しない程度に頑張っていきましょう。

竹谷さん 河口湖畔にある「レイクベイク」へは、今回3度目の訪問である。
とにかく素晴らしい立地、その立地を最大限に生かしたレイアウトのウッドデッキ、素晴らしく落ち着いた建物、そして、横溝氏を信頼し尊敬して付いてくる従業員、商品のほとんどを自家製自然酵母で仕込んでいるが、パンの美味しさ、とりわけクラストの味わいには自家製酵母ならではの甘みと深い味わいが有る。1度訪問するとその環境と、雰囲気の良さ、商品の品揃えとその美味しさに必ずリピーターになってくれるというのが良くわかる。ここにも地方の名店がある。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2012年7月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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