第4回
つけ麺の原点回帰に注目
つけ麺の原点回帰に注目
つけ麺の発祥とブームの広がり
今では「ラーメン」に並ぶ、一大ジャンルになった「つけ麺」が誕生したのは1955年。東京都中野区橋場町(現・中央5丁目)にあった「中野大勝軒」にて、「特製もりそば」の名で初めてメニュー化され、2025年は「つけ麺生誕70年」という事になる。
忙しかった店の厨房で、平ザルに拾いきれなかった麺をまとめておき、後でまかないとして食べていたのが考案のきっかけ。店長だった山岸一雄氏が、まかないだった食べ方をメニュー化する事を決断して味を整えた。これが人気を集めて、中野大勝軒が属する「丸長のれん会」で作り方を披露。「丸長」各店では「つけそば」の名で広まったが、中野大勝軒の常連だった方が立ち上げた「つけ麺大王」がチェーン展開した事で、「つけ麺」の名が定着した。
つけ麺は、ラーメンよりも茹で時間が長く、麺を水で締めるなど手間が加わる。その為か、1990年代までは東京都の西部を中心として広まる「ご当地ラーメン」と呼べる程度の存在だった。つけ麺が全国に広まった最初のきっかけは、1996年に創業した中野の「中華そば 青葉」。ラーメン業界に革新をもたらした「96年組」の一軒で、動物系と魚介系のダブルスープが人気を集めた。それまでは、2種類のメニューを提供するラーメン専門店では「醤油」「塩」が一般的だったのに対し、青葉では「中華そば」「つけめん」の二つを提供。その後続出した「青葉インスパイア」と呼ばれる店でもそのスタイルを踏襲した事で、「つけめん」を提供する店が増えた。
次のきっかけは、「つけ麺専門店」の登場。その先駆けになったのは、2000年に埼玉県川越市で創業した「頑者」。実家の製麺所を借りて店主が打った極太麺と、豚骨を白濁するまで煮込んだ濃厚なつけ汁。そこに魚粉を加えたインパクト溢れるスタイルのつけ麺を提供。それまではラーメン店のメニューの一つだった「つけ麺」を看板にする「つけ麺専門店」が話題を集め、「つけめんTETSU」「つじ田」「六厘舎」などが登場した2005年頃からは、各地で濃厚なつけ麺を提供する「つけ麺ブーム」が広まった。
濃厚からの多様化、原点回帰が次のテーマに
2000年代後半に「濃厚つけ麺」の店が一気に増えた一方で、多様なスタイルのつけ麺も登場するようになった。それまでは、「澄んだスープに細麺」のラーメンを提供する店でも、つけ麺では「濃厚系のつけ汁に太麺」という組み合わせで提供する事がままあったが、ラーメンと同様に「澄んだつけ汁に細麺」のつけ麺を提供する店も増加した。
そんな中から最近のトレンドになったのが「昆布水つけ麺」。その考案者は「ロックンロールワン」(現・ロックンスリー)の嶋﨑順一店主。細麺のつけ麺は麺同士がくっつきやすく、食べる側のストレスになっていたが、それを解消するため、細麺を昆布水に浸して提供。昆布水のグルタミン酸と、つけ汁に使った豚骨のイノシン酸が合わさることで、旨みが増幅されるというメリットもあり、提供店が一気に広まった。麺が絡む心配のない太麺でも、「昆布水つけ麺」を提供する店も増えている。
「濃厚つけ麺」に対する揺り戻しとして、動物系と魚介系をブレンドして軽く濁らせたつけ汁のつけ麺も、改めて広まってきていると感じている。「丸長」「大勝軒」などで提供してきたスタイルに近く、「クラシック」「ノスタルジック」とも呼ばれる原点回帰のスタイルとして話題を集めている。丸長の本店として長く人気を集めた「荻窪丸長」が2023年に閉店して以降、丸長インスパイアを名乗るつけ麺提供店が増えている。
老舗の「原点回帰つけ麺」の注目店へ
つけ麺が生まれた店としても知られる古豪、「中野大勝軒」に伺った。

つけ麺生誕の地からは1974年に移転していて、中野駅南口近くの中野3丁目で、半世紀以上営業している。

ラーメンもメニューにあるが、食券機の先頭は「つけそば」になっている。

「丸長」「大勝軒」の各店舗は、それぞれに独自の味で営業してきた。比較的あっさりしたつけそばを提供してきた「中野大勝軒」だが、2025年7月に味をリニューアル。1951年に開店した当時の味を、記憶を元に復刻させたとの事で注目だ。

自家製麺は力強さを持ちながらもっちりした食感も楽しめて、つけ汁を丁寧に引き上げてくれる。

つけ汁はリニューアルで大きく変化した。豚と鶏を更に加えていて、魚介系素材を交えて煮込んだ事で香り立つ黄金色のスープに。醤油ダレを合わせて、半濁した見た目がこれまでとは明らかに変化している。

メンマとチャーシューを同じ太さに揃えて切って、つけ汁に入れて提供するのが、中野大勝軒のつけそばの特徴。麺と一緒に口の中に自然に入っていく。

残ったつけ汁に割りスープを加えて、じんわりとした旨みを感じながら余韻を楽しめる。
人気店の「原点回帰つけ麺」の注目店へ
2005年に創業した人気つけ麺店「六厘舎」の系列店「舎鈴」でも、原点回帰とも言えるメニューが注目を集めている。

「舎鈴」は着実に店舗を増やしており、こちらは2025年10月に開店した「秋葉原末広町店」。観光客の多い秋葉原駅周辺からは少し離れた場所だが、早くもお客さんが集まっていた。

こちらでも、「つけめん」が「ラーメン」よりも先に掲載されている。

「つけめん」は、現在の「六厘舎」をイメージさせる濃厚豚骨魚介味だが、今回注文した「創業つけめん」は、「六厘舎」が創業した2005年当時に、一ケ月だけ提供して封印した味との事。2025年に期間限定メニューとして提供を開始したが、その後も継続して提供中のメニューだ。

麺は通常のつけめんと同じと思われる、太ストレートでもっちりした食感。

独特なのは麺を浸すつけ汁。澄んだスープに酸味や辛味が加えられた醤油味。刻みネギや黒胡椒、縦長に刻んだナルトもたっぷり入っている。

チャーシューとメンマは麺の上に乗せている。

卓上調味料が豊富なのも「舎鈴」の特徴。中でも「特製ニラ辛味」は注目で、創業つけ麺の澄んだつけ汁に入れると一気に辛くなる。

麺にかけてみてほしいのは「荒挽き梅」。つけ汁に浸すと、酸味が一気に広がって独特な味変効果を発揮する。「柚子粉」「七味黒」などもあるので、様々に試してみるのもオススメだ。
「原点回帰」はつけ麺進化へのきっかけに
つけ麺がブームになった2000年代には、つけ汁の濃さで競争が起こり、濃度を示す単位「ブリックス」も知られるようになった。その後、つけ麺の様々なスタイルが注目されるようになった2010年代から、「原点回帰」と呼ばれる動きも広まってきた。ラーメンだけでなくつけ麺でも「ノスタルジック」「クラシック」が注目されているが、単なる復古ではなく、更なる進化への意識を持った「原点回帰」に、食べ手の熱い視線が注がれていると感じている。
プロフィール:山本剛志さん
1969年東京都生まれ。2000年の「テレビチャンピオンラーメン王選手権」で優勝。
全国10000軒以上のラーメン店を巡り、ブログなどでラーメン情報を発信中。日本ラーメンファンクラブ実行委員会代表委員。

プロフィール:山本剛志さん
1969年東京都生まれ。2000年の「テレビチャンピオンラーメン王選手権」で優勝。
全国10000軒以上のラーメン店を巡り、ブログなどでラーメン情報を発信中。日本ラーメンファンクラブ実行委員会代表委員。

※このページの掲載情報は2025年12月時点のものです