第3回
横浜家系ラーメンの現在地
横浜家系ラーメンの現在地

家系ラーメンの誕生と発展
ラーメンのジャンルは様々だが、近年になって明らかに知名度を高めたのが「家系ラーメン」。横浜発祥だが、現在では全国のみならず、海外にも進出している。
「家系ラーメン」は、今から半世紀以上前の1974年。横浜市磯子区新杉田の産業道路沿いに開店した「吉村家」の吉村実店主が作った味をベースにしている。醤油味の「東京ラーメン」と豚骨味の「九州ラーメン」との融合がテーマになっているが、単に両者を混ぜただけではなく、鶏ガラと豚骨を煮込む寸胴を巧みに使い分け、2つの味が持つ特徴を活かして、仕上げに鶏油をかけるスタイルになっている。
吉村家の支店として開店した「本牧家」が、1988年に「六角家」を開店させるなど、「家」をつけた店名が共通項になり、ラーメンファンの間で「家系ラーメン」と呼ばれるようになった。「麺の硬さ」「油の量」「味の濃さ」を選べるスタイルが共通しており、吉村家で修業した店、そこで修業した店…と、まさに「家系図」のように店が広がっていく一方で、吉村家とは無関係に開店した家系ラーメン店も増えていった。
1994年に開館した「新横浜ラーメン博物館」に「六角家」が出店した事で、横浜を代表するご当地ラーメンとして認知されるようになった影響も見逃せない。
ご当地ラーメンから全国区へ
元々の「家系ラーメン」は醤油味のみだった。そんな中、1992年に開店した「壱六家」は吉村家との繋がりを持たず、白濁した豚骨メインのスープによる塩ラーメンや味噌ラーメンも提供。その壱六家で修業した人物が2008年に開業したのが「町田商店」。この店が店舗展開するにあたり、スープを炊く事ができない物件でも店を開くために、スープ製造を外部委託する方法を編み出した。そのスープを使いたいという出店希望者へのコンサルタントやプロデュースも行い、「家系ラーメン」を看板にするラーメン店が、全国に広がるきっかけになった。
「町田商店」や、「壱角家」「魂心家」といった新興の家系ラーメンチェーンでは、吉村家などが「店炊き」で作るスープとは異なり、豚骨や鶏ガラの密度を均質にまとめた「クリーミーポタージュスープ」と称するスープを使用。品質を一定に保てる事からチェーン展開を進めやすく、2010年代後半ごろから全国に店舗を広げて、「家系ラーメン」の知名度を全国区にしていった。
近年では、家系ではないラーメン店やラーメンチェーンが、新ブランドとして家系ラーメンを提供するケースも増えている。「せたが屋」の店主が手掛けた「ラーメン家 がんくろ@武蔵小山」や、「はやし田」などで知られるINGS社による「横浜家系ラーメン みどり@新宿」などが話題を集めている。
2020年代に入る頃から、「店炊き」でスープを作る家系ラーメン店の間でも2つの新たな潮流が生まれている。一つは、濃厚なスープに負けない塩分を感じさせる「しょっぱウマい家系ラーメン」。もう一つは、まろやかさを出しながら個性も発揮している「ネオ家系ラーメン」。両者のこれからの動きにも注目だ。
「しょっぱウマい家系ラーメン」の注目店へ
まずは「しょっぱウマい家系ラーメン」で人気の店、「横浜家系らーめん 輝道家 水道橋駅前店」に。

水道橋駅西口を出てすぐのビル、入口に看板を出しているが、少し奥まった場所で2023年4月開店。東京ドームなどにも近く、立ち寄りにも便利な場所だ。

新中野に本店を置く「武蔵家」で修業したご主人が、2006年に早稲田で立ち上げた「武道家」を人気店に育て上げ、2018年に中野区野方で独立した「輝道家」。その2号店がこちらの「水道橋駅前店」。ポスターでも「しょっぱ!うま!」とアピールしている。

ラーメンは醤油味のみで、塩ラーメンやつけ麺などはメニューに置いていない。ライスはもちろん、トッピングも豊富に用意している。

家系ラーメンの特徴である、「麺の硬さ」「味の濃さ」「油の量」を選べる点は、こちらでも共通。インバウンド需要を意識して、英語のキャプションをつける店も増えたが、こちらでは中国語もつけている。

ラーメンとライスを注文。ライスはおかわり自由!

とろみを感じる豚骨醤油味の濃厚なスープ。しょっぱさも強く感じられ、思わずライスに手が伸びる。

中太ストレート麺は新宿だるま製麺製。ツルツルシコシコした食感の短い麺で、柔らかめにしても負けないしなやかさがある。

燻製香を感じるチャーシューが存在感を出している。ほうれん草と3枚の海苔は、家系ラーメンの定番トッピング。おかわり自由のライスを、スープに浸した海苔で巻いたりスープをかける事で、どんどん食べられる。

卓上の調味料が豊富なのも家系ラーメンの特徴。昆布とニンニクを漬け込んだ酢でさっぱりさせたり、豆板醤で辛味を加えたり。醤油漬けのニンニクとマヨネーズをご飯にかける客も多く、それがしょっぱウマいスープとマッチする。
「ネオ家系ラーメン」の注目店へ
「ネオ家系ラーメン」の注目店として紹介したいのは、「家系ラーメン 革新家TOKYO」。

東京駅八重洲南口の地下街で、人気ラーメン店が10店並ぶ集合施設「東京ラーメンストリート」で、2023年10月開店。

人気ラーメン店で修業を重ね、2011年に麹町で「ソラノイロ」を立ち上げた宮崎千尋店主による、新たな家系ラーメン店。店名につけた「革新」を、ラーメンから様々に感じられる。

醤油味の「ラーメン」をベースに、「カラシめん」「ガーリックめん」などもメニューに。汁なしの「芳醇ちーゆそば」も気になる。

「麺の硬さ」「油の量」が選べる。「鶏油多め」がトッピングにある他、「味付背脂」も用意。

豚と鶏を丁寧に煮出して、家系ラーメンらしい見た目の「ラーメン」だが、個性を様々に発揮している。

スープには豚のげんこつ・ロース骨・背脂を使用。鶏は熊本の地鶏「天草大王」など、国産の鶏ガラを用いている。滑らかな口当たりで力強く、インパクトがありながら飽きさせない一杯を実現。醤油ダレは家系ラーメンの人気店「ラーメン飛粋」直伝!

家系ならではの中太麺だが、北海道産小麦の「春よ恋」「ゆめちから」に、熊本県産のもち小麦「モチハルカ」をブレンドした特注麺。モチッと滑らかな食感が、口の中に心地よい食感を残してくれる。

吊るし焼きしたモモチャーシューが食べ応え抜群。「特製ラーメン」では、豚ロースチャーシューも加わる。ほうれん草の代わりに江戸菜が乗り、海苔は旬に合わせた各地の高級海苔をチョイス。スープに負けない強さがある。

サイドメニューの「ガリガリ肉玉丼」も注文。ニンニクを入れたタレとフライドガーリック、2種類のニンニクを使っていて、フライドガーリックの食感からも感じる「ガリガリ」の名がつけられている。様々な部位の刻みチャーシューと卵黄をかき混ぜて、スープをかけるなどして一気に食べられる。

豊富な卓上調味料から、リンゴ酢やラー油などを使い、味変のバリエーションが多いのも嬉しいポイント。
誕生から半世紀を超えて、固定観念に囚われない様々なスタイルが登場している家系ラーメン。スープの味に幅があり、「麺の硬さ」「味の濃さ」「油の量」の選択や、卓上調味料での味変など、食べる側に幅広い選択肢を提示できる。成長する可能性が大きい家系ラーメンに、これからも注目したい。
プロフィール:山本剛志さん
1969年東京都生まれ。2000年の「テレビチャンピオンラーメン王選手権」で優勝。
全国10000軒以上のラーメン店を巡り、ブログなどでラーメン情報を発信中。日本ラーメンファンクラブ実行委員会代表委員。

プロフィール:山本剛志さん
1969年東京都生まれ。2000年の「テレビチャンピオンラーメン王選手権」で優勝。
全国10000軒以上のラーメン店を巡り、ブログなどでラーメン情報を発信中。日本ラーメンファンクラブ実行委員会代表委員。

※このページの掲載情報は2025年8月時点のものです