
「竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦」。今回は北海道七飯町の人気ベーカリー「こなひき小屋」の親方・木村幹雄さんにお話を伺いました。「パン×福祉」という目標を胸に始めたパン職人という仕事。パン屋として歩んだ約30年とは、木村さんにとってどのようなものだったのでしょうか。自らを「親方」と名乗り、周囲も親しみを込めてそう呼ぶ木村さんの北海道・道南という土地への想いがお話の中から見えてきました。
- 竹谷
- 本日はお忙しいところ、お時間いただきありがとうございます。
- 木村
- こちらこそ、遠いところをお越しくださいまして、ありがとうございます。
- 竹谷
- 早速ですが、パン職人になったきっかけを教えてください。
- 木村
- 私はパン屋をはじめる前、福祉施設で働いていました。その頃から障がいをもつ人が自立できる職場を作りたいと思ったんです。そのためにはまず、自分自身が自立して商売や会社を成り立たせなくてはなりません。
- 竹谷
- 数ある商売の中から「パン屋」を選んだのはなぜですか?
- 木村
- 何も考えずに退職し、何をしようかと考えていたところ、たまたま遠い親戚の友だちがパン屋に勤めているという話を聞きました。そのとき「パン屋さんもいいな」と思い、その方の勤めているお店を紹介していただきました。そのお店が札幌にある竹村克英さんの『ブルクベーカリー』だったんです。
- 竹谷
- 『ブルクベーカリー』ではどのくらい修業をされたんですか?
- 木村
- はじめはパン職人になるには4~5年の修業期間が必要だと言われました。そこで私は「パン職人になりたいのではなく、障がいをもつ人の自立できる場所としてパン屋をやっていきたいんです。」という意志を竹村さんに伝え、1年間だけ修業をさせていただきました。その代わりに従業員ではなく、弟子という形での採用となりました。
- 竹谷
- 1年間のみの修業でお店をオープンさせるのは、とても勇気が必要だったと思いますが、不安などはありませんでしたか?
- 木村
- 楽天的な性格というのもありますが、不安は特にありませんでした。1日3~5万円ほどの売上があれば何とかやっていけるという計算もした上で、すぐに「やれる」と思いましたね。
- 竹谷
- 1日3~5万円というと1日来店客は100人弱でしょうか?結構な人数ですよね?
- 木村
- はい。でも地元である七飯町に出店するということは決めていて、計算上ではこの町ならばやっていけると思いました。
- 竹谷
- 強い意志と目標があったからこそ、スタートできたんですね。オープン当時から場所はこちらですか?
- 木村
- 建物は建て直していますが、場所は変わっていません。昔は桶屋を営んでいたご主人から借りた小屋で営業していましたね。自分たちで一から販売スペースを作りあげました。




- 竹谷
- 1987年9月に『こなひき小屋』がオープンして、当初の販売状況はどうでしたか?
- 木村
- 想定していた1日100人を優に超え、200人近いお客様に来店いただけました。たくさん来ていただけるのは嬉しかったのですが、とにかくパンの提供が間に合わず大変でした。スタッフも私と妻、もうひとり販売の女性だけでしたから。
- 竹谷
- 1日200人のお客様へパンを提供しつづけるのは並大抵のことではありませんね。
- 木村
- はい。寝る暇もなく、当初の目標であった障がいをもった人を雇う余裕もないまま、とにかく商売を軌道に乗せることだけに必死になってしまいました。
- 竹谷
- お店がそこまで繁盛した勝因はなんだったと考えていますか?
- 木村
- 町外から車で来るお客様もたくさんいました。当時から函館にも『精養軒』や『キングベーカリー』などの老舗のベーカリーがすでに出店している状況でした。しかし『精養軒』はフランスパン、『キングベーカリー』は食パンといった棲み分けもしっかりできていたので、私は菓子パンに力を入れました。特にデニッシュの種類を増やしたのが勝因だと思っています。また、竹村さんから学んだ「バターぱん」もよく売れましたね。
- 竹谷
- 多い時でどのくらいのお客様がいらっしゃいましたか?
- 木村
- 10時から13時までがピークで1時間に60人くらいの人が来ていましたね。オープン当時はお店も小さく1坪ほどしかなかったのですが、たくさんのお客様にきていただけたおかげで、今があると思っています。
- 竹谷
- 1年間のみの修業だと色々とわからないこともあったと思いますが、そういった部分はどのように補っていたんですか?
- 木村
- 自分のお店をオープンしてみて、修業不足であることは実感していました。1ヶ月に1度は『ブルクベーカリー』に行き修業をしていました。
- 竹谷
- では、パン職人としては『ブルクベーカリー』とお客様に育ててもらったとも言えるんですね。



